ロバが行方不明
キャクーは小さな村の生まれです。ダライラマがお住みになる有名な宮殿、ポタラ宮があるチベットの都ラサには行ったことがありませんでした。ラサはこの国唯一の世界的な都市です。
ある日キャクーはジワ、つまり乾燥したヤクの糞を売りにラサに行くことにしました。ジワは主な燃料でした。彼は七匹のロバを持っていました。彼は六匹のロバの背にジワの積み荷を載せ、残る一匹のロバの背に自身がまたがりました。ラサに着いたとき、彼はポタラ宮の景観に圧倒されました。ポタラ宮は丘の上に立つ数千の窓を持った巨大な無垢の白色の宮殿でした。
六匹のロバを追い立てながら、彼はポタラ宮の窓を数え始めました。窓があまりに多いため、いつまでも終わりそうにありませんでした。
突然彼は自分のロバを数えていないことを思い出しました。行方不明になっているロバがいないかどうか、つねに確認しなければならないのです。
数えたら、六匹しかいません。出発したときには七匹いたはずです。何度も数えたんですが、どうしても一匹足りません。
パニックになりそうでした。一匹行方不明になったと思い、広場に出て彼は走り回って探しました。広場の向こう側にいくつかテントがあり、人々はそこでピクニックを楽しんでいました。
キャクーはヒステリックな状態になり、ロバという言葉を忘れてしまいました。彼はあわてて片方の手で草をむしり取り、もう片方の手にロバのクソを持ちました。そして人々がピクニックをしているテントに駆け込んだのです。彼はテントという言葉も忘れてしまいました。彼はそのテントに駆け込んで叫んだのです。
「やあ、袋のなかのみんな! これを食べるおらの動物を見てねえか?」と片手につかんだ草を見せました。そして「こんなクソをする動物だ!」ともう片方の手に持つロバのクソを見せました。
この愚か者の問いを聞いて、テントの中のだれもが腹を抱えて笑いこけました。
笑われ、恥ずかしさでいっぱいになった彼が自分のロバのところに戻ると、七匹のロバはのんびりと草を食んでいました。単純に彼は自分が乗っていたロバを数えていなかったのです。