(5)あらわれた不思議な能力

 アイリーンは家から5キロほど離れたカトリック教徒ばかりの国民学校で唯一のプロテスタントの家の子供だった。ひとつの建物のなかに大勢の子供たちと過ごすのは、彼女にとって大きな重荷だった。

 生徒たちは単なる肉体ではなかった。彼らは卵型のぼんやりとした光に包まれていた。それは色が変化する半透明のものであり、性格によって濃くなったり澱んだりするものだった。人間だけでなく、植物や動物にもそれぞれの色によって表れる「取り巻くもの」を彼女は見ることができた。生徒や先生たちにとってアイリーンは風変わりな話をする奇妙な女の子であり、彼らは彼女をうそつき呼ばわりした。彼女は深く傷つき、自分の世界に引きこもることになった。だれも彼女のことを信じず、体験を共有しようとしないので、見たことについて話をすることはなくなった。表面上は楽しそうに、人にあわせるように見せて、何もしゃべらなくなった。アイリーンは喜んで自宅にもどり、彼女だけに見える友だちたちと会った。彼らは歌いながら、規律正しく互いのまわりをくるくる回って踊り、それは星の光の玉のようだった。

 この時期、アイリーンは自分自身を植物や木々や花に、のちには人に投影するテクニックを発展させた。表面上は平常に見えても、内部の流動的な部分を他人のなかに投影し、彼らが同じ部屋にいようと遠く離れた場所にいようと、その人間に影響を与えることができるようになった。この面を発展させ、長じて彼女は霊媒になったのだった。このテクニックは彼女を孤独から解放した。人がいなくても部屋は形や色、影、音、活気に満ち溢れていたのだから。

 

 家のベランダで絵本を見ていたときのこと、ふと顔を上げると赤ん坊を抱いたレオン叔母さんが立っていた。大好きな叔母さんだった。彼女は母親の、つまりマーサ叔母さんの姉妹だった。体調がおもわしくないと聞いていたので、アイリーンはその姿を見てうれしくなり、走り寄った。しかし疲れた様子だった。アイリーンは叔母さんの手を引いて部屋の中に入れようとした。

「私はいま遠くへ行かなければならないの。赤ん坊といっしょにね」

 そう聞いたアイリーンは家の中に駆け込み、レオン叔母さんが来ているからベランダに来て、とマーサ叔母さんに言った。叔母さんらはベランダに急いだが、姿はなかった。アイリーンは庭を探し、さらに道路の向こうまで探したが、レオン叔母さんの姿はなかった。戻ってきたアイリーンはレオン叔母さんの様子、着ていた服装、抱いていた赤ん坊について詳しく話した。マーサ叔母さんはまたアイリーンが話を作ったのだと思い叱ったが、赤ん坊のことをどうやって知ったのかと聞いた。アイリーンが知らないと答えると、口答えしたのだと思い、叔母は姪を折檻した。彼女はまたも傷ついた。夜のあいだずっと寝ないで泣き続け、朝、学校に行くことができなかった。昼まで部屋から外に出ることができなかった。叔母にたいする憎悪が増していった。午後、庭の隅の小屋のなかに寝転んだ。それから近くの湖に叔母が可愛がっている小鴨の群れを見つけた。アイリーンは、自分を罰した人間は罰せられなければならないと思った。湖畔で小鴨を捕まえると、それらが息絶えるまで水中に沈めた。アイリーンはそれぞれの死骸から灰色の煙のような物質が立ち上っていくのが見えた。

 小鴨が殺されたことを知ったマーサ叔母さんはアイリーンの部屋にやってきたが、叱りつけたり叩いたりすることはなかった。こんな悪いことをするなら、追い出さないといけないわね、と言っただけだった。アイリーンはベッドにもどってすぐ寝た。眠りについた頃、叔母がもどってきて言った。

「レオン叔母さんが死んじゃったの、子供を産むときに。その赤ん坊も死んでしまったわ」そして付け加えた。

「これからは見たことをしゃべっちゃだめよ。本当になってしまうから」

 小鴨の死骸から煙が昇るのを見て以来、アイリーンは死について興味を増した。カラスやウサギが彼女の犠牲となった。死が新しい生をもたらすかどうかが関心の的だった。しかし二週間後には自分のサディズムに嫌気がさし、部屋に閉じこもってしまった。もう二度と殺しはしたくなかった。殺した小鴨のことを思って涙を流した。


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