(8)ロンドン心霊協会の会合に初参加

 ある日ホステルに泊まっている男がアイリーンに向かって言った。

「あなたは霊媒としての能力を持っているのに、十分生かされていない。残念なことです」

 名は明らかにされていないが、彼自身透視能力を持つ霊能者だった。アイリーンを見て、彼女には透視、透聴、ヒーリング、サイコメトリーの能力があることを見抜いたのだった。

男は腕時計をアイリーンに渡し、それに触って何を思い浮かべるかたずねた。アイリーンは「息子さんが浮かんできます」と答えた。さらに息子についてさまざまなことを述べたが、それは的中していた。物に触ってその物に関わる情報を得るのはサイコメトリーである。

 アイリーンは男の言うことを信じることができなかったが、彼女自身子供時代に死者、あるいは死体から何かが立ち昇るのを目撃していたことを思い出した。彼女は男といっしょにロンドンのスピリチュアリストの会合に参加することにした。

 最初に見たロンドン心霊者同盟(London Spiritualist Alliance)の降霊会には失望した。台の上には霊能者が座っていた。百人ほどの聴衆が集まっていた。

 霊能者の声が言った。

「部屋の隅に大きな黒い帽子をかぶった灰色のひげと青い目の老人がいます。あなたのお父様でしょうか」

「はいそうです」と婦人。

「お名前はジョンでしょうか。Jという文字が見えます。ジェームスかもしれません」

「そのとおりです」

「彼が言うには、あなたは月末に事態がよくなるかどうか心配しているとのことです。何のことかわかりますか」

「よくわかります」

 アイリーンは降霊会で亡霊や死者と会話をするさまを見ることができるのではないかと期待していた。しかし実際は、檀上に座った霊能者が死者を見ていると主張し、客席の婦人がそれは父に違いないと言っているにすぎなかったのだ。

 霊能者は「アリス」を探した。三人のアリスという名の女性が手を挙げた。一番前にいたアリスが探しているアリスだと言った。

「あなたのお母さんがあなたを呼んでいます。ここにお母さんがいます」

 最前列のアリスは興奮し、話を聞きたがった。

「お母さんはいまとても幸せで、こちらの世界には戻ってこないだろうとおっしゃっています。でもアリス、あなたはこれからもお父さんや家族の世話をしていかなければいけないとお母さんはおっしゃいます」

 アイリーンは失望した。霊能者がしゃべるのは、世間的な、どうとでもとれる日々のありふれたアドバイスばかりだったからだ。この降霊会で学んだのは、心霊主義よりも人間の弱さだった。うすっぺらなパフォーマンスではあったが、それはそれで彼女には興味深かった。

「ありえないわ」とずっとあとになって彼女は述懐した。「死は自由と浄化をもたらすはずなのに、あんな陳腐なレベルになってしまうなんて」

 それでも彼女は翌日また会合に参加し、心霊協会のメンバーになった。たとえそれが陳腐でいかさまであったとしても、あるいは孤独で病的な人々をだますものであったとしても、彼女自身の幻影や死者との関係についても説明できるきっかけになるのではないかと考えたのだ。

 

 それからずっとのちの1948年、アイリーンが主宰する雑誌の編集者だった筆者(アンゴル)は、ニューヨーク西40番街のウェンデル・ウィルキー・ホールで開かれた降霊会でよく似たパフォーマンスがあったことを報告している。ここでは檀上の霊能者の立場にいるのはアイリーン自身だった。

 客席の後方にいた婦人がアイリーンにたずねた。

「ギャレットさん、私を助けていただけますか? 五か月前に夫を亡くし、私はとても寂しいのです。夫なしでは生きていけません。夫も私を必要としているのです。だから夫のもとへ行きたいと思っています。夫は苦しんでいて、私ももうこれ以上耐えきれません。どうしたらいいのでしょうか」

「あなたのご主人は大丈夫ですよ」とアイリーンはやさしく、力強く言った。「ご主人はいまいるところで幸せに感じているのです。ご主人はあなたとともにいるのです。ほら、となりに座っていますよ。ご主人はあなたにいままでどおり暮らしてほしいし、ご主人もいままでどおり暮らしたいのです。だからそんなに心配しないで」

 降霊会のあと婦人は感謝のことばを述べた。彼女がどんなに救われ、死んだ夫の存在を感じているかをアイリーンに伝えた。アンゴフがなぜいつもより同情的に婦人を慰めたのか、と聞くと、アイリーンは答えた。

「だってほら、あのご婦人、とてもかわいそうでしたでしょう。それほど助けにはなってないでしょうけど」


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