(21)ジャマイカの亡霊屋敷

 ロックランド屋敷の件の数週間後、アイリーンは同僚らとともに休暇をとってジャマイカへ行った。モンテゴ湾から13マイルのところにローズホールがあった。ここにはアニー・パーマーの霊がついていた。アニーはこの巨大な屋敷の女主人であり、砂糖のプランテーションの経営者だった。しかし同時に白い魔女として知られ、1831年、三番目の夫に首を絞められて殺された後、奴隷たちに焼かれた。

 1952年のクリスマス休暇に参加した一行には、超心理学財団のミッチェル・ポバースや私設秘書のレノア・デイヴィソンらが含まれていた。

 ローズホールに入った瞬間、アイリーンはたんなる旅行者ではなくなった。コントロールできない予見者的ヴィジョンに捕らわれたからである。

 アイリーンはアニーの最初の夫、農園主のジョン・ローズ・パーマーについて話し始めた。アニーはこの最初の夫を恐れていた。彼はゆっくりと毒を盛られていった。アニーは40代後半に見えた。太目で、髪はとても黒く、輝く、刺すような目をもっていた。人生に危機感をいだいていたので、逃げ出したかった。この木の近くに立つと(アイリーンは)感じます。アニーやウィッチ・ドクター(呪術師)がこの木を用いていた。彼女がぶたれ、暴行を受け、最終的に殺されたのはこの木の近くだった、

 アニー・パーマーは横柄で、考え深く、いらいらして、ローズホールの贅沢さが好きではなかった。彼女はまた夫が好きではなかったので、黒人奴隷を愛人としていた。夫に情事がばれたので、彼女は夫の飲むワインに毒を入れた。もだえ苦しんで死にそうな夫の姿を愛人とともに見て、せせら笑った。しかし死の床から妻に呪いをかけようとしたので、毒が命を奪う前に、彼女は愛人に夫の首をしめさせたのだった。彼らはすぐに死体を処理したので、ジョン・パーマーの墓はいまも所在地不明である。

 アニーは殺人のことを知る者を始末しなければならなかった。彼女は若い愛人を黒馬に乗せ、死ぬまで馬を走らせた。暴君となったアニーは黒人労働者にたいし鞭打ったり拷問にかけたりした。彼らはアニーを白い魔術師と呼び、その魔術的な力を恐れた。

 ある日プリンセスという名の奴隷の少女がミルクをもってきた。しかしそのミルクには毒が入っていた。モンテゴ湾の裁判所で少女は死刑が宣告された。アニーはその首をもらいうけ、竹のポールの先につるして奴隷労働所を見渡せるようにした。

 つぎつぎに白人の移植者が入ってきたが、アニーは彼らと関係をもち、あきたら殺した。彼女は再婚したが、夫は殺される前に逃げ出した。

 1831年12月、奴隷の反乱軍がプランテーションに火をつけたが、アニーを殺すことはできなかった。恐怖が憎悪にまさったからだった。二年後、奴隷らはベッドの上で首をしめられて殺されているアニーを発見した。三番目の夫か奴隷によって殺されたにちがいなかった。奴隷たちは呪いを恐れて彼女の遺体を埋めることができなかった。ジャマイカのほかの地区の入植者が家の近くの庭にようやく埋葬した。

 12月26日、アイリーンたちはふたたびローズホールを訪れた。歴史を知る人々は警戒するようアイリーンに忠告したが、彼女は意に介さなかった。

 屋敷のなかに入り、アイリーンはトランスに入った。アニーの(アイリーンの)身体は床の上を転がり、笑い、うなり、歌い、祈り、また、取り巻く人々に彼女のために祈るよう懇願した。

「群衆が見えます。逃げる足音が聞こえます。屋敷が乗っ取られるかと思うほどです。ほかの人々が来ます。だれかが身をまげてアニーを見下ろします。アニーが死んでいるとは思っていません。最終的に、背の高い荒々しい黒い、スパニアードのように黒い男によって秩序が回復します。二、三人の輝くハンカチを頭上にのせた女たちがあらわれます。それから2、30人の人々があらわれます。何人かはアニーにかがみこみ、梯子のようなものをとりだします。彼女はそれの上に置かれます。まだ生きています。ひどい痛みがあるようです。彼女は夜のあいだにゆっくりと、痛みながら死んでいきます。それから灰色の光が見えます。それは朝の光でしょう」

 アニーの声が発せられた。

「これが私の終わりなどとは思わせない。私以上にあいつらがよく知っているだろう。私の叫びは生き続け、遺産をほしがる者は呪いのことを知るだろう。私の死は罪深いものかもしれないが、わが人生の力は費やされることはない。血が流れるだけなのだ」

 この件からはなにも結論が得られなかった。アイリーンが感じ、記録したことはいまだ形成途上のローズホール伝説の一部となるのだった。


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