師ユクテシュワルとの出会い 

 1910年、17歳になったムクンダは父親に黙って家を出て、友人のジテーンドラ・ラル・マジュムダルとともにヴァラナシ(ワーラーナシー)へ行った。ここでサーダナ(修練)を実践しながらサッドグルを探そうと考えたのだ。彼らはここで幸運にもバーラト・ダルマ・マハマンダルという宗教センターのサンニヤシ(出家僧)の長であるパラマハンサ・スワミ・ジュナナナンダと会った。ジュナナナンダ・マハラジはこの若い二人を見た瞬間、サドゥーになるために家出をしてきたのだとわかった。そこでまず彼らにサンニヤシの生活がどんなにたいへんであるかを理解させるために、アシュラムで生活させることにした。ここでサーダナの生活を送りながら、信仰に身をささげ、ヒンドゥー教の経典の勉強もするのだ。ムクンダはジュナナナンダ・マハラジも、アシュラムでの生活も気に入ったようである。

 ある日ムクンダはアシュラムのために市場へ買い出しに行った。通りを歩いていると、向こうから長い髪をなびかせた背の高い聖者が歩いてくるのが見えた。雑踏のにぎわいのなかであるにもかかわらず、心騒ぎがした。ムクンダがもう一度その聖者のほうを見ると、聖者もまた彼のほうをじっと見ていた。見れば見るほど、ムクンダはその聖者に惹かれていってしまうのだった。さらに歩き続けてその方向を見ると、聖者は立ち止り、微動だにしないで、彼のほうを見つめていた。ムクンダはいっしょに来ていた人に市場での買い物のために持っていたお金を渡すと、聖者がいた方向へ歩いて行った。そこには聖者がそのまま立っていた。

「グルデウ! グルデウ!」(グルデウは神聖なるグルの意味)

 ムクンダはそう叫びながら聖者の足元にひれ伏した。聖者は彼を抱き起しながら、語りかけた。

「少年よ、ついに汝、来たれり」

 この人生において互いに知ることはなかったが、はるか昔からふたりは運命の糸で結ばれていたのだ。この聖者、スワミ・シュリ・ユクテシュワル・ギリはラナマハルの自宅にムクンダを招き、しばらく会話をかわし、少年がグル兄弟(おなじグルを持つ者)であるバガバティ・チャランの息子であることを知って驚く。

 ムクンダはスワミ・マハラジ(ユクテシュワルのこと)にイニシエーションを施し、サンニヤシにしてくれないかと懇願した。スワミ・マハラジは、イニシエーションは可能だが、サンニヤシにさせる時期には至っていないと告げた。大学の単位を取ること(少し前、ムクンダはコルカタの大学の受験に合格していた)も必要だと言った。ムクンダはこの提案には不満を持ったようである。しかしつぎのひとことが決定打となった。

「サンニヤシになることは簡単だよ。でも弱々しいババ(聖者)になったところで、どうだっていうのだね。おまえはスワミ・ヴィヴェーカナンダになるべきなのに」

 ヴィヴェーカナンダはラーマクリシュナの高弟で世界にインドの宗教を広く知らしめた当時のスーパースターだった。ユクテシュワルはムクンダを一目見ただけで、この少年のもつ無尽蔵の可能性を感じ取ったのだろう。前世からの運命づけられた子弟関係などと軽く言うことはできないが、時代にしばられないすぐれた師匠(グル)が、時代を越えた宗教的天才の弟子を見出した一瞬だったのである。これを大きな事件といわずに、なんと呼べばいいだろうか。

 ムクンダはなお躊躇していたが、ユクテシュワル自身が一筆とってムクンダの父に手紙を書く約束をし、コルカタにもどってからはセラムポール(スリランプル)のユクテシュワル邸で再会できることを伝えた。納得したムクンダは、ヴァラナシを離れて帰宅することを決意し、母親が彼に残していた「そのときになったら開ける」箱をあけた。するとなかにあるはずのお守りがなくなっていた。真のサッドグルに会えたとき、そのお守りは消失することになっていたのである。

 


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