ラージャタランギニーに記されるイエスに似た男の磔刑   宮本神酒男 

 カルハナによって1148年頃に編まれたカシミールの王統史『ラージャタランギニー』は、カシミールに来たイエスについて示唆を与える重要な資料である。それはグル・イシャナの弟子、アーリア人王の聖人サンディマティ(神の霊の意味)の磔刑について詳しく記述しているのだ。

 当時、謎めいた流言が戸口から戸口へと伝播していった。「王国はサンディマティのものとなるだろう」。それは将来起こるできごとのなすわざだった。

 それゆえ国王は彼をとらえ、牢獄に投げ込み、足枷をはめて苦しみを与えた。国王は運命を変えるには、彼を殺すしかないと考えた。

 愚かな人々が仕事を手際よく行おうとあらたな方法を考え着くと、かえって運命が切り開かれるものなのだ。国王の命令のもと、サンディマティは残酷な執行人によって磔刑に処せられた。

 その知らせは偉大なるグル、イシャナのもとに届いた。彼は弟子のサンディマティの磔刑が無慈悲に執行された場所へと急いだ。

 そこには十字架があり、十字架上には骸骨がかかっていた。

 おお、汝をここに見ようとは。
 親愛なる者よ、なんという有様だろう。

 彼は十字架に貫かれた骨を抜き取った。骸骨を十字架から下ろすと、その額に文字が刻まれていた。

 貧しき生活を送りし者、幽閉されし者、十字架上にて息絶えし者、しかしてなお玉座にありし者、ここにあり。奇跡あらわれ、この者にふたたび生を蘇らさん。

 グル・イシャナはこの場にとどまり、予言が満たされるのを待ちわびながら、ひたすら骸骨を見ていた。骸骨は夜のあいだ、うるわしい香りを放っていた。木の後ろに隠れて見ていると、骸骨のあばら骨が震えだした。まるで眠っていた人が、香ばしい軟膏に包まれながら、起き上ろうとしているかのようだった。そして美しい衣を着て、花冠をかぶったサムディマティは、記憶を取り戻すと、グル・イシャナの前に跪いた。

 このように神の霊と呼ばれたサンディマティは磔刑に処せられるが、イエスのようによみがえるのである。

 『ラージャタランギニー』に描かれるサンディマティは、しかしシヴァ神の熱烈な信者だった。毎日彼はシヴァ・リンガを1000個作ったという。それを崇拝したあと、彼は聖なるナルマディー川に似た池や川に投げ込み、ささげた。彼の宮廷は灰を身体に塗ったリシ(聖者)であふれんばかりだった。国中で大きな寺院やリンガ、牛の像、三叉鉾が作られた。彼が生き返った火葬場(上述)には、サウディシュワラとイシェーシュワラと名付けたシヴァ像を立てた。またクシェーダ、ビマ、デーヴィに祭祀の家や像、寺院、リンガを作った。夏の熱い時期には、彼は森の中で涼しい修行をおこなった。(これはアマルナートの洞窟のことだと考えられる)秋にはマガでリシたちと夜通し修練に励んだ。

 このようにサンディマティは生活のすべてをシヴァ神への信仰にささげるようになり、国政をおろそかにしてしまったため、彼が病気に倒れたときには、家臣たちは喜んだという。さっそく彼らは後継者探しに取りかかった。

 こうしてサンディマティについて記されている箇所を読むと、シヴァ神信仰に熱心なあまり国を疲弊させてしまった国王の姿が見えてくる。サンディマティはイエスより30歳も年上であるし、イエスの磔刑よりも十数年前に病没しているのだ。またサンディマティは十字架にかけられたのではなく、杭か槍のようなものにかけられている。それを十字架に言い換えている点においても、ハスナイン氏は不誠実と言わざるをえない。



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