永遠の秘儀参入者イエス
ユージーン・ホイットワース『キリストの九つの顔』
紀元前56年、救世主と呼ばれた男が磔(はりつけ)にされた。しかしこの男は死の床から蘇ったという。わずかに残された記録から彼の名がヨセフ・バル・ヨセフ、あるいはイェシュアウ・イェシュアであることがわかった。
このような設定で、大西方同胞会(グレート・ウェスタン・ブラザーフッド)の創設者ユージーン・ホイットワース(1912−2005)が書いた秘教的な小説『キリストの九つの顔』(1972、1994)ははじまる。
イェシュアウ・イェシュアはペルシアのマゴイによって油を注がれた者、すなわちキリストと呼ばれた。そして多くの宗教の化身の霊力を持っている者とみなされた。
このイェシュアは、80年後に磔刑に処せられるイエス・キリストとよく似ている。ホイットワースの考えでは、イェシュアウ・イェシュアがイエスになるためには、エッセネ派やマゴイ(ゾロアスター教)、バラモン、エジプトのヘルメス・トートの教えを受けなければならなかった。言い換えれば、この小説に登場するイェシュアウ・イェシュアは、実質上ホイットワースがみなす秘教的なイエスそのものなのである。もしイエスが各国でイニシエーションを受けたと主張したなら、トンデモ異端説のレッテルを貼られたかもしれないが、時代をずらして、しかもフィクションという断り書きを入れさえすれば、だれにもとがめられることはなかった。
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