エレファンタ洞窟の秘儀               宮本神酒男 

 イェシュアらは陸に上がってから何時間も歩き、ようやく現在のムンバイ近郊にあるエレファンタ島のエレファンタ洞窟の前に着いた。ここでは古代、秘儀イニシエーションが行われていた。イェシュアは洞窟の入り口の前の巨大な神像の足元にある石の家に住んだ。毎日村を抜け、川で沐浴をした。すると村人が集まってきて、抱えている問題の相談をしたり、治療を依頼したりすることもあった。着ている衣が異なるので、彼らはイェシュアのことを「聖なる追放者」と呼んだ。彼はここに2年間住んだ。

 ある日グルからの知らせが届いた。そこにはこう書いてあった。

 準備せよ。チャル・アシェルム(4つのイニシエーション)の秘儀がおこなわれる予定である。それによって神と一体化することができるだろう。

 翌朝、いつも運ばれてくる水と食べ物が来なかった。そのかわり白い紐が戸に結われた。これはもう戸を使ってはいけないという印だった。イェシュアは一日中待ったが、何も訪れなかった。翌朝ヒョウタンに半分ほどの水が届けられた。その日も一日何の変化もなく、夜半になって外で足音が聞こえるようになり、ロウソクの明かりも見えた。祭司らの行列が見えたので、彼はそのあとを追った。彼らは女神ドゥルガの像を運んでいた。その夜は月が欠け始めて9日目であることを彼は思い出した。彼らは神像を川で沐浴させたあと、神をほめたたえる歌を唱和しながら、もとの場所に戻した。

 イェシュアははじめて洞窟の中に入ることを許された。はじめて見る巨大な金の神像は、4、6、8本の腕を持ち、ルビーや水晶、ダイヤモンド、翡翠で飾られていた。それぞれの腕は宝石がちりばめられたシンボルを持っていた。イェシュアは水を浴びせられ、またゼナル(聖なる紐)をかけられた。それから彼らは物質的な太陽の後ろに隠れている秘密の太陽に捧げものをした。そして彼は縫い目のない衣を着せられた。そのあと長い時間、人間関係の重要性についての講義を聞かされ、休憩に入った。それが第一段階の終了であった。

 ゲリシュト(第2段階)が始まった。イェシュアは四方から火と烙印に囲まれ、身体のあちこちに十字架の印を押された。また音を立てないように命じられ、そして「おまえは死んだのだ」と言われた。それからパストスに送られ、何時間も試験を受けることになった。パタラ(地獄)の入り口にいるよう言われるが、すこしでも動けば試験は落ちてしまうということだった。四六時中目をこらしておくよう注意された。というのもヴィシュヌ神がいつ現れるかもわからないので、現れたらその前に跪き、崇めなければならなかったのだ。イェシュアは小さな墓らしき狭いところに何時間も押し込められていた。心は早く外に出て、黄金の少女(ケルトの地で何度も黄金の少女のリアルなヴィジョンを見ていた)と会うことを夢想していた。ようやく地下室の部屋が開き、暗闇から洞窟内の光の中に駆けだした。すると突然ナイフの切っ先に止められた。死ぬほどの痛みを覚えながら、イェシュアは誓いを立てた。おとなしく従順であること、純粋な身体を保つこと、丁寧な言葉使いを守ること、素直に秘密の教団の教義を受け入れること、そして誓いを守り、隠された驚嘆すべき奥義を秘密にしておくことなどを約束した。

 洞窟の中は荘厳さと色彩に満ちていた。それぞれの参加者はピラミッド型の帽子をかぶっていた。それは太陽の炎と人の中の霊的な炎の象徴だった。ひとりの祭司(ヒエロファント)がイェシュアに近づくと、聖水をふりかけ、それから耳元でささやいた。

「この水によって、あなたの母なる身体が多産になり、雄々しい神の霊力を永遠に受胎しますように」

 何百人もの参加者たちが流れるように優雅に舞い、太陽の向こう側の霊的な太陽にささげる歌を唱和した。

 

全能で、内在する、完全なる存在

威厳あるブラフマー神よりさらに偉大なるお方

すべての人間があなたの前に跪く

純粋なる者、そして原初の創造者として

世界の館(やかた)を支えてきた

あなたは穢れのない存在

つかのまの存在にすぎないすべてのものとは異なったお方

 

あなたはいままでも、いまも、神の中の神であられる

内在する、古代の原人プルシャ

宇宙のすべての至高の原因

あなたはもっとも偉大な館

永遠の生の力強い家

宇宙はあなたひとりによって創られた

しかし私はあなたであり、あなたは私だ

全能で、完全なる、内在する神よ




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