磔刑のとき何があったのか               宮本神酒男

 総督ピラトがどういう人間であったかわからないが、イエスの処刑に消極的であったことはまちがいない。ヒュー・ションフィルド(『過ぎ越し祭の陰謀』1965)をはじめ多くの人が「ピラトはじつはイエスを救おうとした」という仮説を立てたのにはそれなりの理由があったからだ。イエスの処刑を要求する大衆をなだめるために、ピラトはイエスを鞭打つよう命令したが、けっして命を奪わないように手をゆるめさせることも忘れず命じた。

 シルビア・ブラウンはションフィルドの説を踏襲し、イエスの磔刑は見せかけにすぎなかったと主張する。これはピラトの策略である。イエスが十字架にかけられてから3時間、イエスが弱ってくると、「伝達走者」は急いでピラトのもとへ行き、イエスの状態を知らせた。ピラトはすでに専属の医者に睡眠薬が入った溶液を作らせていた。喉が渇いたイエスが水を要求したとき、この溶液に浸されたスポンジが渡された。イエスは意識を失い、見た目には死んだかのようだった。兵士はあらかじめピラトに命じられたとおり、「イエスは死んだ」と宣言し、それを証明するためにイエスの脇を槍で突いた。イエスは何の反応も示さなかったので、すでに死んでいるとみなされた。

 そして予定通り、アリマタヤのヨセフはすぐにイエスの身体を十字架から降ろし、マグダラのマリアとニコデモに手伝ってもらいながら、身体を亜麻布で包み、人目を避けるためにヨセフの墓所に運んだ。墓所は石窟であり、石の床があった。もし土に埋めていたら、窒息死してしまっただろう。

 ピラトが派遣した医者とマグダラのマリアによって、イエスは息を吹き返し、傷の治療を受けた。イエスは一休みし、食べ物と飲み物を口にした。

 イエスが食事を取ったとき、そばにいたのはマグダラのマリアとアリマタヤのヨセフだけでした。安息日の早朝、ほかの隠れ場に移るようにとのピラトの言葉を受け取りました。というのもサンヘドリンが墓所を警護するために兵士らを送ったからです。マグダラのマリアはふらふらのイエスが変装するのを助けました。アリマタヤのヨセフは担い籠を手に入れ、人を集めてイエスを運び出しました。彼らは石を転がして岩窟に蓋をし、イエスを安全な場所に移すことができたのです。

 



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