カルマと奇蹟                             宮本神酒男

 シルビア・ブラウンは聖書のなかの奇蹟についてひとつひとつ取り出し、独自の解釈をしている。注目すべきは、イエスが中風患者を癒すエピソードだ。(「マタイ伝」9章2節、「マルコ伝」2章3節、「ルカ伝」5章18節)

 イエスが自分の町に帰ると、中風の者が運ばれてきた。イエスはその者に向かって「あなたの罪は許された」と言った。ユダヤ人にとって、罪を許すことができるのは神だけだったので、ある律法学者は「この人は神をけがしている」と心の中で思った。しかしイエスが「起きよ。家へ帰れ」と言うと、中風の者は起き上がって家に帰って行った。

 シルビアの解釈によれば、輪廻転生を信じる者にとって、中風というのはカルマの結果だった。イエスはカルマによる罪を許したので、歩くことができるようになった。イエスはこのことをインドで学んだのである。

 シルビアが列挙したイエスの奇蹟は以下のとおり。

●穢れた霊、あるいは悪魔に取りつかれたシナゴーグの男から霊(悪魔)を取り除いた。(「マルコ伝」1章23節、「ルカ伝」4章33節)

●熱病にかかっていたペテロの姑(しゅうとめ)を治した。手に触れただけで熱が引いたのである。それから悪霊に取りつかれたたくさんの人々から霊を追いやった。(「マタイ伝」8章14節、「マルコ伝」1章29節、「ルカ伝」4章38節)

●イエスはらい病患者を治した。患者にはそのことを言わないように頼んだが、司祭に報告してしまった。(「マタイ伝」8章1節、「マルコ伝」1章40節、「ルカ伝」5章12節)

●ベテスダの池にいた歩けない人を治すと、その人は歩いて行った。問題はこの日が安息日であったことだった。(「ヨハネ伝」5章2節)

●ナインという町でやもめのひとり息子が死んだ。イエスは哀れに思い、棺架に手をかけると、息子は立ち上がった。(「ルカ伝」7章16節)

●この奇蹟をヨハネの弟子たちはヨハネに知らせた。ヨハネはイエスに使いをやり、「来たるべきかたはあなたですか」と質問させた。イエスは答えの中で、「盲人は見え、足なえは歩き、らい病人はきよまり、耳しいはきこえ、死人は生き返り、貧しい人々は福音を聞かされている」と自らの奇蹟について述べた。(「ルカ伝」7章19節)

●片手のなえた人をいやした。またしても安息日であった。(「マタイ伝」12章9節、「マルコ伝」3章11節、「ルカ伝」6章6節)

●悪霊につかれた盲人のおしをいやした。(「マタイ伝」12章22節)

●舟に乗ったとき強風が吹いてきたが、イエスは風をしずめた。(「マタイ伝」8章23節、「マルコ伝」4章36節、「ルカ伝」8章23節)

●イエスは水上を歩いた。(「マタイ伝」14章22節、「マルコ伝」6章45節、「ヨハネ伝」6章17節)

●イエスは盲人の目につばを吐き、手を当てて目を治した。(「マルコ伝」8章22節)

●イエスは手を置くことによってふたりの盲人の目を治した。(「マタイ伝」9章28節)

●ガダラの地で男から悪霊の群れを追い出した。それらはブタに入り、海へなだれを打って入り死んだ。(「マタイ伝」8章28節、「マルコ伝」5章2節、「ルカ伝」8章27節)

●シナゴーグの長であるジャイルスの12歳の死んだ娘を蘇らせた。(「マタイ伝」9章18節、「マルコ伝」5章22節、「ルカ伝」8章41節)

●12年間も出血(長血と訳される)に悩まされていた女が、イエスの衣服に触っただけで癒された。(「マタイ伝」9章20節、「マルコ伝」5章25節、「ルカ伝」8章43節)

●悪霊につかれたおしの男から悪霊を追い出し、癒やした。するとしゃべれるようになった。(「マタイ伝」9章32節)

●カナンの女の娘が悪霊につかれていた。女が信仰心を持っていることがわかり、イエスは娘を癒した。(「マタイ伝」15章22節、「マルコ伝」7章25節)

●耳が聞こえず口のきけない人を癒した。(「マルコ伝」7章32節)

●足なえ、不具者、盲人、おし、その他大勢の人をいやした。(「マタイ伝」15章30節)

●背中の曲がった女を安息日にいやした。(「ルカ伝」13章10節)

●死んでいたラザロを起こした。(「ヨハネ伝」11章1節)

●安息日にパリサイ派のかしらの前で、肺水腫を病む人をいやした。(「ルカ伝」14章1節)

●10人のらい病患者をいやした。(「ルカ伝」17章12節)

●道路の脇に坐っている二人の盲人をいやした。(「マタイ伝」20章30節。「マルコ伝」や「ルカ伝」ではひとりの盲人)

●イエスが逮捕されたとき、祭司長に耳を切られた僕(しもべ)をいやした。(「ルカ伝」22章50節)

●イエスは(悪霊に)憑かれた少年をいやした。(「マタイ伝」17章14節、「マルコ伝」9章16節、「ルカ伝」9章38節)これら「憑かれた」という場合、実際は癲癇のことである。

●わずかなパンや魚を増やし、5千人に食べさせた。(「マタイ伝」14章15節、「マルコ伝」6章36節、「ルカ伝」9章12節)




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