神秘家トリシア・マッキャノンのイエス   宮本神酒男 

謎だらけのイエス 

 サイキックや霊媒、ヒーラーの名士録(Akashic who’s who 2005)に「透視者、ヒーラー」という肩書で登場するトリシア・マッキャノンは、自分自身を神秘(mysteries)の専門家と呼ぶ。そんな彼女にとって、イエスは尽きることのない神秘の源泉なのである。マッキャノンの著書『イエス、失われた30年の論争を呼ぶ物語と古代秘教』(2010)は彼女の神秘のエンサイクロペディアである。

 イエスのことについてはわからないことだらけだが、そもそも生まれた年、日にち、つまり、誕生日すらはっきりしない。よく知られているように、イエスが生まれたのは西暦1年ではないし、誕生日も12月25日ではない。

 イエスが生まれたのは紀元前4年とする説が有力だ。というのも、ヘロデ大王(BC73?−BC4)が2歳以下の幼児を虐殺せよという命令を発したため、イエスと両親はエジプトへ避難したわけだが、大王が存命中でないと辻褄が合わなくなってしまうからである。しかし、この命令自体が歴史的事実とは言い難く、イエス誕生の根拠とするには十分とはいえない。
 たとえばティム・ウォレス=マーフィーは(『シンボル・コードの秘密』)「幼児殺し」はつくり話だと断じている。ヘロデがこれだけの残酷なことをしながら、ヨセフスが著書で記述していないのはありえないというのだ。

 マッキャノンはロバーロ・ロマスとクリストファー・ナイトの『ヒラムの書』の仮説を採り、シェキナーが現れた紀元前8年12月25日、紀元前8年4月18日、紀元前7年11月7日が有力であるとする。シェキナーとは一般に神の女性原理のことを指すが、ここでは、つまりユダヤ人にとっては、金星と水星の合(ごう)のことを指す。三博士が星に導かれてイエスの誕生を知ったというのは、天体現象と符合していたということなのである。このほか古代に出現した彗星から、紀元前6世紀頃に天空に「星」があらわれた可能性があるという。イエスが紀元前8年から6年のあいだに生まれたとすると、イエスが磔刑に処せられたとき、年齢は42であったかもしれないとマッキャノンは述べる。

 12月25日を誕生日とするのはイエスだけではなかった。ホルス、オシリス、ミトラ、アドニス、アッティスもまたそうだった。復活と再生の神の定番ともいえる誕生日だったのだ。12月25日は冬至の三日後であり、この点でも聖書に描かれたイエスの死と三日後の復活と一致しているのである。

 


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