終末カルト教祖のイエス伝説          宮本神酒男 

予言者エリザベス・クレア・プロフェット(1) 

「母の名を言っても、ほとんどの人は知りません」とエリザベス・クレア・プロフェットの娘エリンは語る。「でも、90年代はじめにイエローストーン国立公園の近くに核シェルターを造ったグループのリーダーだった、と言うと、ああ、思い出した、核戦争を予言した人だね、という返事がかえってきます」

「本の名を覚えている人もいます」とエリンはつづける。本とは、第1章や第2章で取り上げた『イエスの失われた歳月』(1984)のことである。この著書がベストセラーになったことで、「インドで学び、修行した」というイエス像が広く知られることになったと言っても過言ではない。

「でも彼らはかならず尋ねます。あの本の考え方はとてもポジティブなのに、シェルターに住むなんて、ネガティブすぎるのではないのかって」

 エリザベス・クレア・プロフェット(19392009)は、チャーチ・ユニバーサル・アンド・トライアンファント(普遍勝利教会、略してCUT)というキリスト教系カルトのリーダーで、グル・マ(母なる導師)と呼ばれた。彼女は「1990年4月23日に核戦争が勃発する」と予言し、信者たちとともに核シェルターに避難した。世界の破滅を予言したのだから、普遍勝利教会はこれによってドゥームズデー(終末)カルトの仲間入りをしたと言ってもさしつかえないだろう。

 ノストラダムスやマヤの予言がはずれても(いや、そもそも予言などされていないのだが)、「何も起こらなかったじゃないか」で愚痴をこぼす程度ですむ話なのだけれど、いままで数限りないドゥームズデー・カルトが現れ、教祖が世界の終末を予言し、信者を集団自殺に追い込んだ。

 エリンが挙げる終末論(アポカリプティック)カルトは、アナバプテスト(再洗礼派)、サバタイ派(教祖はシャバタイ・ツェヴィ)、ミラー派(教祖はウィリアム・ミラー)、シーカー(探索する者の意。教祖はドロシー・マーティン)、その他フェスティンガー学派(社会心理学者フェスティンガーの『予言がはずれるとき』は終末カルトの先駆的研究書)が研究するさまざまなカルト教団などである。

 破滅をもたらしたカルトの事件としては、1978年のジョーンズタウン事件(ガイアナの人民寺院の集団自殺)や、普遍勝利教会の核戦争予言以降だが、1994年のヘブンズ・ゲート事件、1997年の太陽寺院事件などがあげられる。この3つの事件ほどにはエリザベスの終末予言が記憶されていないのは、集団自殺にいたらなかったからである。

 しかし悲劇的結末とは紙一重だった。数千人の信徒はそれぞれ財産を捨て、モンタナのシェルターに移り住んだ。* 彼らは箱という箱に武器を積み込んだが、それが結果的に悲劇を回避することにつながった。ATF(アルコール・タバコ・火器および爆発物取締局)の捜査官が中に入り、武器不法所持でエリザベスを拘束したのである。

 1990年4月23日は何も起こらず、静かに過ぎ去った。予言のはずれた終末カルトの仲間入りをしてしまったのである。

 

⇒ つぎ 









オーラに包まれたエリザベス・クレア・プロフェット


核戦争に備えて作られたモンタナ州のシェルター










ヘブンズ・ゲートの指導者マーシャル・アップルホワイトは、1997年、38人の信者とともに集団自殺した。(いや、おそらくヘール・ボップ彗星に隠れてやってきたUFOに乗ってどこかへ行った!?)