テラペウタイ派と仏教の共通点                   宮本神酒男

 フィロンの記述をもとに、リリーはテラペウタイ派と仏教の比較を試み、共通点を列挙している。

(1)菜食主義の義務付け。財産共有。性的堕落の厳格な忌避。清廉さの高度な基準。

(2)酒の使用の禁止。(飲酒だけでなく儀礼に用いるのも禁止)

(3)かつての祭司たちが好んだ血の儀礼の禁止。

(4)両者の僧侶とも、神の知識を獲得するためには命をも惜しまない。

(5)長期間の断食。

(6)特別な精神的修行としての沈黙(黙行)。

(7)テラペウタイ派の人々は、兄弟、子供、妻、父母のもとを「永遠に」離れる、とフィロン。これは仏教のことでもある。

(8)仏教徒のようにテラペウタイ派にも尼僧がいて、貞節を誓う。フィロンが指摘するようにギリシアの神殿の「純潔」とははっきりと異なる。仏教徒・テラペウタイ派の貞節は自発的なものであり、ギリシアの純潔は強制されたもの。

(9)仏教オリジナルの説教師と伝道師はテラペウタイ派にも明確にみられる。これは直接的にモーセ主義と敵対する。

10)その名が示す通り(セラピーとテラペウタイの語源はおなじ)テラペウタイ派は身体と魂のヒーラーである。仏教の僧侶も多くの国において治療師とみなされている。彼らはたんに治療するだけでなく、悪魔祓いもおこなう。

11)テラペウタイ派は聖域において、パピルスのマットの上に座す。仏教の僧は白いキャラコに覆われたマットの上に座す。

12)テラペウタイ派の序列の最上位にくるのは長老。これは仏教におけるアルハット(阿羅漢)にあたる。アルハットはブッダの時代、奥義を伝授された者たちだった。長老の補佐をするディアコノス(ディーコン、助祭)である。またテラペウタイ派の首長をつとめたのはエフェメレウト(司教)だった。

 
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