スーパー・アンチ・ヒーロー        宮本神酒男 

 毀誉褒貶という言葉は褒(ほめる)と貶(けなす)が相半ばする、すなわち半々くらいという意味なのだが、グラーム・アフマドに対する毀誉褒貶の場合、圧倒的に貶(けなす)のほうが多かった。彼と彼を開祖とするアフマディヤ派は百年以上のあいだ誹謗中傷の嵐にさらされてきた。とくに身内であるはずのイスラム教からは批判だけでなく、迫害されることもあった。現在においてもインドネシアではたびかさなるアフマディヤ派の迫害事件が報じられている。

バハーイー教やバーブ教のようにイスラム教から離脱すればともかく、イスラム教にとどまりながら根本部分で教義に反すれば、かえって激しい攻撃を受けることになるのだ。

ここまでのアンチ・ヒーローも珍しいだろう。ネットで検索すると、アンチ・アフマドのサイトは少なくなく、そこには罵詈雑言があふれている。

 いわく「大英帝国にお金をもらっていた」「一日百回も小用を足していた」「下痢をしながら死んだ」「精神疾患を患っていた」等々。いや、これらはかならずしも反対派による言いがかりとはかぎらないのだが。周囲がみな敵のような状況で、英国の援助はありがたかっただろう。宣教師の知り合いも多く、とくにバトラー牧師は親しい友人だった。アフマドは多くの持病を患っていたので、トイレに近かったとしても不思議ではない。死んだときに激しい下痢を起こしていたのはたしかだが、「神罰が下って」コレラにかかったというのは根も葉もない噂にすぎない。また神から多くのメッセージを受け取っていたことから精神疾患云々という批判があるわけだが、「神から啓示を受ける」人と狂人はつねに紙一重なのだ。


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