猫魔術  エレン・ドゥガン 宮本神酒男訳 

 

1章 猫神と女性の神秘性 

何千年も昔、猫は神としてあがめられた。猫はけっしてこのことを忘れなかった 

           俗言 

 

 猫は魅力的な動物です。その歴史は神聖さ、謎、魅惑に満ちています。何世紀ものあいだ、猫は、ほかのどんな生き物よりも魔術との結びつきをもってきました。この章では猫と関連する神話学とよく知られた女神の魔術的な性格について考えてみましょう。それぞれの女神に対応する色や石、水晶、ハーブ、そして付加的な、魔術的な属性がここでリストアップされるでしょう。そしてもちろん、とりあげられたそれぞれの神は、個人の魔術的な特殊性に調和した、自身の猫の魅惑(猫の呪文)をもつことになります。さて、もしかすると、この章が女神だけに焦点をあてていることをいぶかしく思っているかもしれません。しかしこたえはシンプルです。

 魔術の猫は女性の神秘性をもっています。そのはじまりは疑いなく、何千年も前のナイル河谷のバステトやその他の猫の神々にさかのぼります。古代エジプトを抜きにして、神聖なる猫のテーマを語ることはできないのです。古代エジプトの国では、猫は神聖な寺院の動物であり、一般民衆はファラオに対するのとおなじようにペットの猫を崇拝していました。イシスやハトホル、マフデト、ムト、ホルス、ラー、セクメト、セトなどエジプトの多くの神々は猫――野生であろうとペットであろうと――と結びついていました。

 大半のエジプトの猫はおそらく赤味がかったか、黄褐色か、金色でした。王墓の壁に描かれるファラオの猫は、チェックマークのような柄がはいった黄褐色の猫です。この縞模様は現代のぶち猫にも見いだされます。この威厳のある猫がどうしてこのように描かれているか、大胆に推論してみたいと思います。猫は王宮の生活をエンジョイしながらファラオの王座の下に寝ています。エジプト猫は蛇や齧歯(げっし)動物から食糧庫を守る役目をもち、家庭の炉辺という名誉ある場所を確保することができました。エジプトの人々は猫を、魔術パワーと直観力をもったものとみなしていました。猫を意図的に害することは法に反していました。じっさいにそうした愚か者は処刑されたのです。

 エジプト人の猫崇拝の高まりは、愛すべき猫頭の女神バステトの信仰へとつながっています。紀元前2000年前後以来、バステトはエジプト神話のなかでもたいへんな人気を誇る女神となったのです。現在、バステトは猫を愛する魔女やその他魔術愛好家にとっての古典的な女神です。それでは、「すべての猫の母」として知られる魅力的な猫の女神の神話学について、つぎの項目でくわしく学びましょう。


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