第10位 歯痛に耐えきれず、切腹した清兵衛
南千住に超能力タコ焼き屋があると知人から聞いて、わざわざ探しに行ったことがあります。その「パワーブレンドTANAKA」は小さなタコ焼き屋ですが、パワーだか熱気だかがムンムンと充満していました。夏の盛りだったので、主人は文字通り汗だくになってタコ焼きを作っていました。不思議なことに、この主人が指パッチンをすると、タコ焼きの味が変わるのです。主人は超能力者なのか、メンタリストなのか、よくわかりませんが、意外と味はしっかりしていました。ひとつひとつの実(タコ)が大きく、歯ごたえがあって、おいしかったです。
そのあと周辺を散歩していたとき、面白い神社を見つけました。それが山王清兵衛(さんのうせいべえ)とやらを祀った日枝神社でした。そこにはつぎのような説明書きがありました。
いずれかの藩士清兵衛が虫歯の痛みに耐えかねてこの地で切腹し、遺言によってその霊を祀ったという。俗に山王清兵衛と呼ばれ、歯痛に悩む者が祈願して効き目があれば、錨をくわえた女性の絵馬を奉納するならわしで、千住の歯神として有名であった。
いずれかの藩士って、なにかいい加減な感じがします。清兵衛も「たそがれ清兵衛」の清兵衛で、当時のありきたりの名前だし、本当に存在したようには思えません。しかし江戸時代、盲腸でさえも多くの人々が命を落としました。歯痛で亡くなる人はそれほど多くなかったでしょうが、専門の歯科医がいなかった時代、その痛みを取るのは容易ではなかったでしょう。庶民の大半は神社に祈願したか、民間療法に頼ったといいます。
激痛に耐えかねて切腹した下級武士がいたとしても不思議ではありません。戦争映画の中でも、負傷した兵士が断末魔の苦しみから逃れるために、仲間に自分を撃つよう懇願したシーンがあったように記憶します。
清兵衛は「わが魂魄、ここにとどまって、ながく歯痛に悩む者を救わん」と遺言し、「千住の歯神」になりました。(杉本苑子)こんなことを実際に言うとは思えませんが、せめて神格化でもしなければ、理不尽な死に方をした藩士の霊は浮かばれないでしょう。
上の説明書きにあるように、祈願して効き目があれば、錨をくわえた女性の絵馬を奉納するならわしになっていました。でもその絵馬を見たことがありません。この風習は途絶えてしまったのでしょうか。
代わりにといっては何ですが、この祠の屋根の下に木彫りの獅子らしきものを見つけたので紹介しておきます。歯痛をこらえているかのような必死の形相はこの神社にふさわしいのではないでしょうか。
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