子どもたちは胸を高鳴らせ、喜んでフィルのあとを追いました。かれらは森を出て、インディアンの小道にもどりました。エレンとフィルは後続との距離をたもったので、だれもこれ以上の質問をかれらに投げかけることができませんでした。

 頻繁に出入りしているエレンとフィルにとって、秘密の部屋は感動的なシーンをたくさん与えてくれる場所でした。「サウルと盗まれた宝石」「トランクのあいたふたの下に縮こまるオパリ」「コインをじっくりと見るベンジャミン・ペイズリー」「割れ目にダイヤモンドを探しあてるビンゴ」といったシーンがありました。秘密の部屋はとても魅力的です。それ自体がかれらの大いなる秘密でした。秘密を共有するということは、友人たちに好意を示すことにほかならないと彼らは感じました。

 かれらはゲストを二階へ導き、誇りをもって板張りの遊び部屋へと案内しました。フィルは暖炉の横の板のへこみを指さしました。彼はそこに指を引っかけ、軽く押すと、パネルがすべって壁のなかへとおさまったのです。

 期待にドキドキしながら、ジョンとビル、バーサはその向こうの暗い空間をのぞきこみました。

 フィリップとエレンが洞窟で気がめいったように、友人たちも秘密の部屋を見ておなじように気がめいってしまいました。ひとりずつ部屋にはいり、出てきたときには失望の色が目に浮かんでいたのです。見たものといえば、何もない棚がならぶだけの、食器棚程度の大きさの空間だけでした。埃だらけの、かび臭い、きたならしいクローゼットにすぎなかったのです。それは屋敷の中央部にある小さな真っ暗の穴倉でした。

「これが秘密の部屋なんだな!」ジョンの声の調子には軽蔑がにじんでいました。

「なんにもない感じだな」ビルは観察しながらいいました。

「きみたちはなにを期待していたんだ? 舞踏室(ボールルーム)かい?」フィルは怒りをにじませながらいいました。「秘密なんだから小さいのは当然だろ」

「でもからっぽじゃないの」バーサはつぶやきました。「なんにもないなら、秘密の部屋はなんの役に立つというの?」

「そりゃからっぽだよ。ぼくたちはなにも隠すものを持っていない。前もいったように、サウルは盗んだものをここに隠していたんだ」

「なぜサウルは棚を作ったの?」ビルは不思議がりました。

「彼が作ったんじゃないわ」エレンがいいました。「ほかのだれかよ」

 ゲストたちがエレンに目をやったのを見て、フィリップはため息をつきました。かれらの目には好奇心の炎がまた燃えていたからです。

「だれが棚を作ったの? ねえだれ?」

「しゃべっちゃえよ! 頼むから!」

 エレンはいいました。「フィル、もう話してもだいじょうぶじゃないかしら」

「このままじゃ質問が永遠につづきそうだからね」

「そりゃそうだよ」ジョンは怒っていいました。「話してくれているよりもはるかにたくさんのことを知ってそうだもん」

「そうだよ」とビル。「どうしてそんなに秘密を持ちたがるんだ? きみたちから聞きだすのは、歯を引っこ抜くみたいな感じだ。だれかが話をきかせてくれたっていってたけど、それは本で読んだんだろう」

「そうなの?」バーサはたずねました。

「ちがうよ、本は読んでない」フィルはきっぱりといいました。

「それならだれが話したの?」

「ぼくたちが知っているだれか?」

「そうじゃないわ」とエレンはいいました。「それだけはいえる」

「荒れ野原村に住んでいるだれか?」

「まあ、いや」フィリップはこたえました。「オバケだから、いる、とはいえないな」と考えながら。

「まあ、いやー!」ジョンはフィルのまねをしました。「なんだかケチくさいなあ、もっとしゃべってくんないの」

「そうかなあ、けっこうしゃべったと思うよ」

「でもどうしてだれから聞いたか教えてくれないの」

「できないからだよ、それが理由」

「つまり話さないってだれかと約束したの?」

「約束したわけじゃないよ」とフィルはいいました。

「真正面からこたえるのを避けているようだな」いぶかしそうな目で見ながらビルはいいました。

「わかるだろう」フィルは困り果てました。「知ってることはすべてしゃべった。できるだけたくさん。でもどうやって知ったか話すことはできないんだ」

「どうしてできないんだ?」

「だって話しても信じてくれないだろうから。それが理由」

「話が真実なら、ぼくたち信じるよ」ビルはいいました。

「うーん、話は真実なんだけど、きっと信じないんじゃないかな」

「ためしてみてよ」

「いや、ためさない」

「なんだか小利口だな」ジョンはあざ笑いました。「きみは友人を信用していないってことだな」

「わたしたちに話してくれないなんて、たいした根性だわ」バーサはきつくいいました。「エレン・フィンリーさん、わたしに秘密をうちあけてくれないのなら、もうあなたとは二度と話しませんから」

 エレンはうろたえました。バーサ・トランブルは荒れ野原村で唯一の近しい友人なのです。「フィル、信じると約束してくれるなら、みんなに話しましょう」

「だれも約束なんてできないよ」フィルは渋い顔をしていいました。「だからもうじっとして、よけいなことはしゃべらないように」

 一瞬、沈黙が流れました。ジョンとビルは小ばかにしたような表情で互いを見て、バーサはすねた顔を浮かべました。そしてビルはいいました。「まあ、ここに招いてくれてありがとう。どうやら家に戻ったほうがいいみたいだな。バーサ、帰ろう」

「ピクニックのランチをありがとう」ジョンもぶっきらぼうにいいました。

 硬直したさよならのあいさつを告げると――バーサはひとことも発しなかったのですが――かれらは隊を組んで去っていきました。最近作られたばかりの友情は、あっという間に終わりを迎えてしまったようでした。

 怒りは怒りを呼びます。友人たちと言い争ったフィリップとエレンは、こんどはふたりで言い争いをはじめました。

「あいつらが怒って行っちゃったのは、おまえのせいだ」フィルはきびしくいいました。

「わたしのせいじゃないわ」エレンはうわずった声で反論しました。「真実を明かそうとしないお兄さんのせいよ」

「もし明かしてたら、ぼくたちはうそつきと呼ばれていたよ。おまえはバカだ、オパリナの名を出すなんて」

「お兄さんだって、呼子のことはどうなのよ」エレンは叫びました。「お兄さんが最初にバカはじめたんじゃないの」

「ああ、そうさ! ぼくがはじめたんだ。ぼくがかれらをなだめ、満足させたんだ。だのにおまえが秘密をもらしたものだから……」

 そんな調子でした。夕食時まで言い合いはつづいたのです。ホットチョコレート・アイスクリームとスポンジケーキというデザートを食べたあと、マイルドなムードがひろがり、フィルはやさしくいいました。「思うに、真実を小出しにしても、そんなにうまくいかないんだ。ぼくらは懸命にやってるんだけど、かれらはその部分しか見ない。かれらはそういうの、好きじゃないし、おまえもそれについてかれらを批判することはできない」

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