ラカイン礼賛
宮殿前の神樹とナッの祠堂。
6 精霊(ナッ)たちのムラウー
見方を変えるだけで、見慣れた風景が一変する。ムラウーに数日いただけで見慣れたというのもおこがましいけれど、パゴダめぐりばかりをしていたので、遺跡の位置関係には多少なりとも詳しくなっていたと思う。
ナッ(精霊。現地発音はネッ)に着目したとたん、ムラウーはナッだらけの町に変貌した。マンダレーやポッパ山あたりにたくさんナッがいるように、ラカインにはラカインのナッがいたるところに住んでいるのだ。マンダレーなどでは町の隅にナッシンと呼ばれる祠堂があり、なかに入ると37のナッ神の像が立っている。言葉はわるいが、それらはマネキンみたいで少々安っぽい。ムラウーにも祠堂のようなものもあるが、ほとんどが郵便ポストか鳥小屋のような簡易なもので、それらに金箔が貼ってあるので、聖なる領域であることがわかる。
もっとも近いナッの聖所(ラカイン語発音ではネッサン)はホテルからバイクに乗ってわずか5分の道端にあった。何度も通っているのに気づかなかったのだ。木々のあいまに金箔が見えるので、一度認識するとそれは遠くからでも目に付くようになる。
本尊は何だかよくわからないのだが、目をこらすうちにそれがパゴダの形をしているらしいことに気づく。近づけば近づくほどそれがなにかわからなくなる不思議なナッである。このナッはアブアシャン(apwa shin アブアは祖母の意)と呼ばれる守護神である。一種の祖先神だろう。
つぎに旧宮殿の東門を守る守護神の祠堂(ネッサン)へ。ちょうど道が折れ曲がったところで、馬車がたむろしているのでいやがうえでも目が行くのだが、やはりあまり意識したことはなかった。そこには神樹にちがいない古い大木が立っていて、もしかするとナッはこの樹神の化身ではないかと思った。
祠堂のなかにはナッとしては珍しい石像があった。マウン・ラ(Muang hla)という男性神である。ムラウー朝がはじまるのは15世紀のことだが、この石像は13世紀に作られたともいわれるので、ラウン・チェ朝のミンティ王のときに宮殿が築かれたのかもしれない。
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