師匠(サラー)、精霊(ナッ)を語る                                                                                宮本神酒男



 精霊儀式(ナップウェ)は驚きに満ちていた。ムラウー郊外のアウマングラ村の一軒家(ナッカドーのリーダー自身の家)で開かれた、精霊を呼び、慰撫する十数時間にも及んだ儀式は、六人のナッカドーたちのエネルギッシュなパフォーマンスなしには成り立たなかった。しかし彼らをも凌駕し、圧倒したのは太鼓(ラカイン語でペッ、ビルマ語でパッ)の師匠(ラカイン語でサラー、ビルマ語でサヤー)、すなわちペッ・サラーと呼ばれるウ・セイン・ラ・ウ(U Sein Hla U)だった。

彼のけたたましいドラミングはまどろんでいたわれわれの意識を目覚めさせ、高揚させた。彼は太鼓を叩きながら、精霊の歌もうたった。ビートに乗って、ときにはラップのようにことばを連射した。ロック・コンサート、いや、ラッパーのギグを連想させた。ゲイ・ナッカドーたちとかわす問答は、まるでボーカルとギタリストが掛け合いをしているかのようだった。

 しかし特筆すべきは、汗だくになって演奏しながらも、冷静沈着に全体を統括し、精霊の物語すべてを熟知していたことだ。プロデューサーとディレクター、パフォーマーのすべてを兼ねていた。ナッカドーたちはこの太鼓師匠(ペッ・サラー)から物語や踊りを学び、成長してきたのだった。単調に陥ったり、沈滞したりしたときは、鼓舞するかのように太鼓の表面を激しく叩き、精霊をたたえる歌を口からひねりだした。

 奇妙は話だが、太鼓師匠(ペッ・サラー)には年齢不詳がふさわしいような気がしていた。翌日、彼が71歳であることを聞いて意外に思った。何歳であっても年齢とは違って見えると感じただろう。年齢でいえば老人の男がだれよりも多くのエネルギーを発散していた。(つづく