番外編  パゴダUFO起源説       宮本神酒男

Ratanapon Paya

 90年代、香港を基盤にしていた頃、チムシャーツイの書店スウィンドン・ブックスの書棚の片隅にいつも大判のパンフレットのような安作りの本が置いてあるのが気になった。だれも買わないのか、在庫があるのか、この自費出版らしき本はいつまでも残っていた。

 作者は西欧人、おそらく英国人だろう。タイトルは忘れたが、内容は、ストゥーパ(この項ではパゴダ。ミャンマー語ではパヤー。仏塔)はUFOをならって造ったものだという主張だった。パゴダを分解して図解でみせて、ほらこんなにすごいものだよ、と言っていたのだと思う。結局外観が似ている以上の根拠は示されなかったのだが。丘から俯瞰するとそれは釣鐘のように見えるが、近づいて見上げるとたしかにUFOに見える。
 どのパゴダ(ストゥーパ)を例として挙げていたか記憶にないが、おそらくボロブドゥールだったのではないかと思う。ボロブドゥールはUFOに似ているかどうかより、それが宇宙曼荼羅であることがなによりも興味深い。

 いつもそのインディーな本を「買おうかな」と考えるのだけれど、「こんなトンデモ本を買うのかよ」と自問自答して、手に取ったのが恥ずかしくなってやめるのがつねだった。いまなら即効で買って、つまらなければ捨ててしまえばいいと思うだろうが、当時は若かったのか決断がつかなかった。 

 ある日やはり買おうと思い、意を決して書店に入った。ところがそういうときにかぎって本はないのだ。その本とは永遠にめぐりあうことはなかった。

KothaungPaya

 それから十数年。私はムラウーのパゴダ群をめぐりながら、そのトンデモ本のストゥーパUFO説を思い出していた。バガンやマンダレー、あるいはタイやラオス、インド、ネパールなどを回っているとき、一度としてこのトンデモ説を思い起こしたことはなかった。つまりムラウーのパゴダは衝撃的なほどUFOを連想させるのだ。

 もちろんだからといってパゴダがUFOをもとに造られたなどと主張したいわけではない。むしろユングが提唱したような集合的無意識や元型との関連性を見つけたいと思う。

 パゴダは人間の心、魂、精神を反映しているだろう。心のやすまりがかたちをとって現れたものだ。もしUFOがやすらぎを求める人間の心を反映しているとするなら、パゴダがUFOに似るのは当然だといえるだろう。


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