ロヒンギャ:ミャンマーの知られざる虐殺の内幕  

3 民主主義への回帰(20082015) 


2010年以降の国際政治 

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 2010年以降、ミャンマーの国内政治は国際的重要性を持つようになった。とりわけ政府が民主化移行を許し、NLDを民主主義的オルタナティブ(代替可能)として受け入れたことで、より重要性は増すことになった。こうしてEUによる経済制裁は解かれ、ほかの制裁も緩和され、外国からの投資が一挙に増え、洪水のように押し寄せた。

 ミャンマーの国際社会とのつながりは2010年以後拡大したが、根本的に外の世界との意味のある政治的関係というより、貿易関係に集中していた。資本流入は2009―10年の3億2千万ドルから2012―13年の14億2千万ドルに増え、2014―15年はおよそ50億ドルだった。投資のなかでもっとも大きい分野はテレコミュニケーションで、ついで石油、ガス、不動産、ツーリズムなどだった。この必要とされる投資の飛躍的な拡大に加えて、現在の政権は、制裁解除から得られる利益だけでなく、概して肯定的な国際的評判を得ることになった。そして経済的な配当を得たのである、ただし利益は庶民ではなく、軍部の上層部に行くのだが。

 しかしながらインドや中国といった国家との緊張はなくならなかった。インドは二つの国の間の曖昧に引かれた境界線の安全性を危惧した。そして大量のロヒンギャ難民を受け入れた。インドは2007年以前からビルマでは活動的で、とくにインフラ建設に関わってきた。また石油やガスの抽出にも積極的だった。しかしラカインでの抑圧がベンガル湾地域の安全を脅かしていた。インドにとってミャンマーは貿易の機会をもたらしてくれる国であり、民主主義への移行は多くの問題の解消につながるはずだった。しかしミャンマーはまた、貿易の支配をもくろんで激しく争う二大国として、インドと中国が論じ合う舞台でもあった。

 基本的にミャンマーの政権を支えている中国は、通信回線の新設をしやすくするためにも、北部のいくつかの州の紛争が収まるのを願っていた。しかしまた、中国への難民の流入が抑えられることも願っていた[訳注:この場合の難民は華人系のコーカン族]。この目的を持って、中国はミャンマー北部のさまざまな民族の紛争を煽る張本人だった。ミャンマー中の土地所有権をめぐる地元の争いを煽っているのは、しばしばほかならぬ中国資本の投資プロジェクトだった。それは中国が投資をする際の保障をしてくれるまさにその政権の不安定化を狙ったものだった。

 最近のカチン族らの紛争やシャン州の緊張の高まりは、中国の大手インフラ・プロジェクトとつながっていた。中国は国境での安全、投資、中国からベンガル湾への発展した交通網を求めていた。そしてその地域の武装グループの中でも、特定のグループを依怙贔屓していたように思われる。第二次大戦の間、ビルマ・ロードは軍事物資を中国に送るために使われたが、ミャンマーは今、中国から「ベンガル湾および海の向こうに渡る橋」と見られている。この観点から、中国がロヒンギャ弾圧に関して懸念する唯一の理由は、その状況が彼らの商業的利益をおびやかすことである。

 広い意味で、中国は「ミャンマー社会の隅々に(鼻が)届く」「部屋の中の象」として描かれる。実質的に、中国人は軍幹部を強く支持しているように見え、民主化への変化を支持しているようには見えない。しかし最近、彼らはNLDに対して愛想がよく、2015年7月に北京にアウンサン・スーチーを招待している。[訳注:2021年2月1日のクーデターによってミャンマーの国情は一変してしまう] 

 これは2015年11月の総選挙の結果を見越した現実的な対応だったのかもしれない。中国は長期間にわたってミャンマーと利害関係を持つことになる。というのも、雲南省のような陸に囲まれた省と海をつなぐため、ミャンマー国内に交通インフラを建設する必要があったからである。実際、ミャンマーの政府を樹立することよりも、政府が求められた安全性をある程度のレベルで確保できるなら、中国人にとってはこのプロジェクトを保護することのほうが重要だった。

 西欧が人権や腐敗政治の問題で圧力をかけてくるとき、独裁政権にとって中国が協力的パートナーであるのはありがたいだろう。アメリカと中国の動静がミャンマーの将来に及ぼす影響のことを考えれば、これは重要なポイントである。中国とアメリカは、いわば影響力のゼロサムゲームを繰り広げている。片方の国が、空白をついて国に入り込むのではないかと恐れて、人権侵害に関してミャンマー政権を責め立てるとき、もう片方の国はそうさせまいとする。アメリカは、曖昧な改革の約束を取り付けて、現存する軍部と交渉をする心構えはあるのでる。アメリカはアンダマン海沿いに基地を置きたがり、一方の中国はこの地域にまで拡張し、パキスタンのカラチへの多大な投資のように、アジアの交易ルートを支配下に収めるためにイニシアティブを取ろうとする。

 

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