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 ネ・ウィンはロヒンギャの市民権を否定し、彼らからNRCカードを剥奪する計画を立てた。彼の新しい市民権法には、ロヒンギャの市民権のための章はなかった。この法とその条項はかなり曖昧で、多義的で、複雑だった。より重要なのは、それは1974年の憲法と一致しないことだった。それには市民階級への言及はなかった。

 しかし
SLORCSPDCの中尉や将軍たちは、1990年や2010年の選挙に際し、ロヒンギャが投票に参加し、立候補することを許したのである。なぜなら市民権は、1982年の市民権法の解釈次第だったからである。1990年と2010年の選挙の解釈では、ロヒンギャは市民だった。わたしたちの理解では、当時の政府はNRCを1982年の市民権法のもとで純粋な市民権カードと解釈した。

 しかしいわゆる選挙で選ばれたテイン・セイン政権と現在の[執筆当時の]アウンサン・スーチー政権は、ロヒンギャ全員が持っているNRCとTRC(NRCのかわり)の有効性を無視している。両政府ともまるでロヒンギャが市民でないか、合法的な市民権の文書を持っていないかのように、審査を強制しようとしている。

 最悪なのは、彼らが言うには、ロヒンギャはNVC(国家審査カード。国家審査のための身分カードとして名づけられた)を受け入れなければならない。このカードは審査期間中、ミャンマーで生活しているという証拠として、合法的な規定も、合法的な手続きも含まれていない。これはつまりロヒンギャは以前、真正の、有効な居住の公的文書を持っていなかったことを意味する。実際は、NRC、TRC、家族登録カード、その他多くの出入国管理の公式記録が彼らの居住の証拠となっている。

 2017年、現在の連邦移民大臣ウー・テイン・スウェは、家族登録カード保持者はNVCを持つ必要はないと説明した。しかしロヒンギャの場合、どんな文書を持っていようとも、NVCを持っていないといけないという。難民キャンプの難民を含めたすべてのロヒンギャは将来を憂えることになってしまった。

 しかしながら2010年の総選挙のあと、ミャンマー軍事政権は、この者ども(ロヒンギャ)は不法滞在のベンガル人であり、国の安全の脅威であると主張し始めた。彼らはミャンマーに祖先の地がある者として、彼らの土着化を防ぎ、非合法化し、人間扱いせず、崩壊させた。

ロヒンギャに敵対的なJP・ライダー博士さえ、『ロヒンギャの競いあうアイデンティティと雑種の歴史』(2016)のなかで述べている。[訳注:ジャック・ライダー(レイデル)博士は立場がミャンマー政府寄りであることから、彼のアジア史百科事典編集参加に異議を唱える人たちが彼の除外を求める請願運動を起こした]

 宮廷警護や行政官。王室下僕、宦官、詩人だった17世紀のムラウー朝の宮廷エリートのたくさんのイスラム教徒は、やはり捕らえられ、追放された身だった。宮廷エリートのなかでの生活を彼らは楽しんだが、結局黄金の鳥かごの中の鳥にすぎなかった。

 国際的な基準にしたがえば、そのルーツが何世紀も前に遡るとして、アラカンの17世紀のイスラム教徒の後裔は自分たちのアイデンティティを主張する権利を持っている。

 1948年のミャンマー市民権法令の第三条項は、どのグループが市民権を持っているかの認識を示している。憲法の11項の目的のために、「ビルマの土着の民族」とは、アラカン族、ビルマ族、チン族、カチン族、カレン族、カヤー族、モン族、シャン族、そして1823年以前にビルマ連邦の領地に定住し、永住の地とした民族グループであると表明している。

 シドニー大学人類学部のジェーン・M・ファーガソンは、1948年の市民権法を改定した1982年の市民権法では、どのグループが純粋な国民であるかに関してより興味ぶかいと述べている。この1982年の市民権法は「ユス・サングィニス(血統主義)」の考え方を採用している。それは1948年の市民権法の一部(第4項ⅰ、ⅱ)を削除しているのだ。祖父母が国の領土に定住している人々が、完全な国民として登録できると明記されている。(ファーガソン 2015) 

 最悪なのは、上記の憲法と市民権法の条項のもとに、市民として認められ、NRC(ビルマ国民登録カード)を受け取った人々が、ほかの市民のように、1982年の市民権法のもとに発行された現在用いられている市民権審査カードをもらえないことである。SLORC政府公認の135の民族リストに含まれていないためだった。現在の[訳注:軍事クーデター前の]政府は、確認作業が行われている間、カード所持者であることの証しとしてNVC(国民証明カード)を持つよう促してきた。

 実際、居住していることが証明される多くの公式文書が人々の手に握られていた。ついにはロヒンギャが国民であるかどうかの問題に大きな一撃が加わった。2014年の人口調査では、彼らはカウントされなかったのである。人口調査法の第14項では、人々は自身のアイデンティティを選ぶ権利があると明記されているにもかかわらず。戸別調査員は、審査された人が述べるとおりに書き記すべきである。

 

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