(2)

 トロイ戦争はトロイ人が敗北し、トロイが焼け野原になることによって収束した。彼らの主要な戦士のひとりはかろうじて脱出することができた。プリアム国王のいとこ、アイネイアースである。信仰心の深さに免じて神々は彼が生き残ることを許した。アイネイアースは数百人の同国人とともに、そして背中に老いた父親アンキーセースを負ぶって、焼け落ちる故郷から脱出したのである。

 トロイ人たちはアンタンドロス港に逃げ、そこに艦隊を集めた。そしてアイネイアースを長として出帆した。それからの数年間に彼らはトラキアやテロス島、クレタ島などをまわって落ち着く場所を探した。しかしうまく見つけることができなかった。依然としてさまよいつづけた。

 彼らはブトロトンにしばらくとどまった。その国王が預言を発した。「あなたがたはイタリアに落ち着くだろう。それは神々の意思である。偉大さを成し遂げるためにこの町を見出したのだ。そしてアイネイアースの子孫がこの町を支配するだろう」

 おそらく国王は彼らに止まらないでほしいと願ったのだ。しかし国王の預言にもかかわらず、トロイ人たちはイタリアへ向かった。彼らのルートは危険な大渦のあるメッシーナ海峡を通っていた。彼らはまたシチリア島に一時滞在した。そこではキュクロープスを見つけた。またここに滞在中アンキーセースが死亡した。アイネイアースは父親をこの島に埋葬した。

 そして突然航路が変更された。トロイ人がシチリア島を去ったとき、嵐が起こった。(何らかの方法でネプチューンに攻撃を加えた?) 船は海上を流され、カルタゴの近くに漂着した。

 カルタゴの女王ディードーは若くて魅力的な未亡人だった。彼女はトロイ人たちを歓迎し、アイネイアースのために晩餐会を開いた。それが終了するころまでには、彼女は恋に落ちていた。しかし彼女はこの感情と必死に戦った。なぜなら亡き夫に貞節を誓っていたからである。

 晩餐会のあとアイネイアースとディードーは狩猟に出かけた。すると雨が降り始めたので、彼らは洞窟に雨宿りをした。何時間もそこにいる間に、彼らは肉体関係を持ってしまったのである。

 何か月もの間、彼らは恋人同士としてともに暮らした。そしてついにディードーはアイネイアースに求婚した。こうしてトロイの臣民たちはカルタゴにディドの臣民たちとともに過ごすことになった。アイネイアースとディードーはともに町を支配した。

 アイネイアースは求婚について真剣に考えねばならなかった。女王のことは心から愛していた。しかもトロイの臣民には家が必要だった。ある夜、眠っている彼のもとにメルクリウスがやってきた。神々の使者は彼に自分の運命を思い起こさせた。アイネイアースの運命はイタリアに町を建てることだった。その町は偉大さを成就するのである。「トロイ人よ、出帆せよ」メルキュールは急き立てた。

 アイネイアースは苦悶したが、出発することにした。ディードーとともに残りたいと思えば思うほど、彼女のもとを去らねばならなかった。運命と神々は呼んでいた。しかしこの決定について彼女に知らせることができなかった。そこでひそかにトロイ人の船を準備させた。

 ディードーは彼の秘密の計画に気づき、食ってかかった。また甘言を弄してやめさせようとした。あるいは嘆願した。しかしアイネイアースはほかに選択はないのだと言った。臣民とともに彼は去っていった。

 船が港から離れてかなりたった頃、アイネイアースが振り返ると、火葬の煙が立っていることに気がついた。彼は最悪の事態を恐れた。のちに学ぶのだが、まさに恐れたとおりのことが起きていた。彼の出発にショックを受けたディードーは、自ら命を絶ったのである。

 艦隊とともにアイネイアースはイタリアへ向かった。途中でシチリア島に寄り、父のために葬送儀礼をおこなった。夢の中に父親の亡霊が現れた。

「使者の国に来てわたしのもとを訪ねなさい」アンキーセースは言った。

「どうやったらそちらに行けるんですか」アイネイアースはたずねた。

「アヴェルヌス湖のシビュレーを探しなさい。彼女が地界へ導いてくれるだろう」

 アイネイアースは艦隊とともにシチリア島を去った。そしてイタリアの西海岸沿いに航行した。彼は落ち着く場所を探していた。そしてアヴェルヌス湖を。


⇒ つぎ