(3)

 アイネイアースは洞窟の前に立った。彼の剣(つるぎ)と兜(かぶと)は日差しを受けて輝いていた。「こんにちは!」彼は大きな声をあげた。

 地元の人間から彼は指南を授けていた。浜辺から上がっていき、森の中の小道を歩いていく。湖に出ると、指南されたとおり左へ曲がり、湖岸沿いに歩いていくと、そこにシビルの洞窟があった。

 彼の問いかけに答えは沈黙だった。そこは荒れ果てているように見えた。物音ひとつ立たなかった。鳥のさえずりも虫の唱和もなかった。

 ようやく洞窟から老いた女が現れた。シビュレーはしわくちゃ婆だった。腰は曲がり、しわだらけで、髪はぼさぼさだった。彼女はアイネイアースをじっと見つめ、甲高い声で笑った。

 アイネイアースは自己紹介をはじめた。しかしシビュレーはさえぎった。彼のことはよく知っていたからだ。そして彼女は預言を語り始めた。トロイ人は新しい家を建てようとするだろうが、困難にぶち当たるだろうと彼女は言った。さらに、土地を得るために戦わなければならないだろう。アイネイアースは勇敢でなければならない、また信念を曲げないことが求められるだろうと言った。

 アイネイアースは預言をしてくれたことにたいし、シビュレーに感謝の意を伝えた。内容はわかりきったものではあったのだが。彼はなぜシビュレーを探したのか説明した。冥府にいる父親を訪ねたかったのである。シビュレーは彼をそこへ連れていってくれるだろうか。

 驚いたことにシビュレーはすぐに同意してくれた。ただし二つの条件付きで。一、すぐに船に戻り、ペルセポネーに生贄を捧げること。冥府の女王は捧げものについて知る必要があった。二、彼が黄金の枝を得ること。これはいわば下界への通行証だった。

 アイネイアースは船にもどり、生贄を捧げる儀式をとりおこなった。そしてシビュレーとふたたび会い、彼女のあとについて森の中に入った。「おまえ自身が見つけることになっておる」と彼女は言った。「そこまでおまえを連れいってやろう」

 シビュレーは黄金の枝まで連れていった。黄金の枝は樫の木の枝だった。彼女はアイネイアースに枝を折るようにと言った。ただし彼にそれにふさわしい価値がある場合にのみ、枝を折ることができると説明した。

 アイネイアースは黄金の枝をつかみ、ついでそれを折った。シビュレーは満足げにのどを鳴らし、彼を洞窟まで連れてもどった。シビルは彼を高い腰掛けに座らせた。そして三脚台に火をともし、香気を吸い込むようにと言った。アイネイアースはシビルにならって言われたとおりにした。そしてトランスに陥った。

「あたしのあとをついてきなされ」と彼女は言った。「死者の国の門はすでに開いておる。この国に行くのはいとも簡単。むつかしいのは、こちらに戻ってくることなのじゃ。まあ、その心配はあとでするがいい」

 彼女はよろよろしながら洞窟のほうへ歩いていった。アイネイアースも高い腰掛けから下りて――なまくらの体に元気を取り戻して――彼女のあとを追った。彼らは正門を抜け、階段に歩を進めた。それは地下深くへと下降していた。


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