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*ドルイド僧(Druids)は前キリスト教時代のアイルランドの賢者。知識の宝庫として彼らはさまざまな役割を担っていた。彼らは祭司であり、呪術師であり、占い師であり、医師であり、裁判官であり、歴史家であり、教師であり、宮廷の助言者でもあった。

 キリスト教の到来とともにドルイド教は抑圧され、記録は破壊された。(聖パトリックは彼らの本180冊を焼却したという) 厖大な知識は永遠に失われてしまった。

*ティル・ナン・オグ(永遠の若さの地)はケルトの他界、すなわち神々、妖精、死者が棲む場所である。それは地球の内側に位置する。(西方の海の島にあるとする見方もある) 人は「妖精の丘」から入ることができる。この丘は英国の島々に見られる神秘的な丘である。そこでは他界とわれわれの世界が入れ子状態になっているのだ。

*クー・フーリンの物語のもとはケルトの叙事詩人の物語である。8世紀頃、これらの物語は(さまざまな矛盾するバージョンがある)編集され、整理された。そして埃をかぶった書庫に一部のテキストが残ったのでる。これらを集中的に調べたグレゴリー婦人――アイルランド文学復興のリーダー的存在――が『ムルテウネのクー・フーリン』を書いた。この本の序文でウイリアム・バトラー・イェーツが言うには、冬の晩に語り部が語るようなやりかたでは物語が後世に伝わらなかったかもしれないが、グレゴリー婦人が採集することによってサーガの決定的なバージョンができたのである。

 この章の物語は、グレゴリー婦人が集めた物語とよく似ていた。しかし彼女の物語の結末はどこか違っていた。彼女のクー・フーリンは取り乱して田舎をさまよい歩くことになる。ファンドが彼との関係を終わらせたので、彼は心を失ってしまったのである。そうするとすぐ――

「(アルスターの王は)詩人と熟練した男たちとアルスターのドルイド僧をクー・フーリンに送った。ドルイド僧が彼に魔法をかけたので、彼はしっかりと抑え込まれた。そして機知にとんだいつもの彼が戻ってきた。彼が彼らに飲み物を乞うと、ドルイド僧は彼に忘却の薬を与えた。それを飲んだ瞬間、彼はファンドのことを、そしてすべてのことを忘れた。彼らはエメルにも忘却の薬を飲ませた。彼女が忘れたのは嫉妬心だったが。彼女の状態はクー・フーリンよりも悪かった。

「そのあとマナンナン(ファンドの夫)がクー・フーリンとファンドの間でマントを振ったので、彼らは二度と会うことがなかった」

 ところでクー・フーリンは歴史的人物なのだろうか、それとも叙事詩人の創作物なのだろうか。おそらくはその両方なのだろう。彼は何も記録は残っていないが、1世紀頃、アルスターに生まれた戦士だった。同時に叙事詩人が編み出した物語中の伝説的人物だった。イェーツはこれらの叙事詩人について述べている。「たしかに彼らは広い意味でイマジネーションの中の歴史的真実を信じていた、あるいは半ば信じていた」



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