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 ワイマー博士はクリスマスの日の午前2時、奇跡的な変化をはじめて見た人物となった。前日、彼はマスターの遺体が黒ずんできたと記していた。それは磨いた黒檀材のように黒く、輝いていた。見かけは天空の神であり、守護と戦争の神でもあったエジプトの神ホルスとそっくりだった。それはそばしばハヤブサの頭部を持つ人間として描かれた。しかしいま、それとは違ったより劇的な変化が起ころうとしていた。朝、人々が墓に使うコンクリートを持って上陸したとき、ワイマーは興奮しながらかれらをラ・パリタに呼んだ。

 ワイマーはティードの左腕をみなに見せた。それは水で膨らんでいて、検視官なら水ぶくれと診断しただろう。それは体液のかたまりだったのだが、新しい腕と形成されつつある手を「新生児のように、やわらかくて新鮮なもの」として発見したと信じた、とのちメンバーの手紙に書かれている。かれらは埋葬を拒否し、何か徴(しるし)があらわれるのを待っていた。そしてクリスマスの当日、かれらの努力は報われた。

 墓の建立者たちは、ニュースを知らせるために、急いで居留地に向かって川をさかのぼった。かれらはダイニングホールでベルを鳴らし、集まってきた人々にたいし、奇跡的な変化について語った。人々はすぐにボートに乗り、ラ・パリタで降りると、遺体を見ようと長蛇の列をつくった。クリスマスの日にフォート・マイヤーズに出かけて映画(サイレント映画)ショーを見る約束をしていた子どもたちもやってきた。フォート・マイヤーズへの旅を心待ちにしていた子どもたちのあいだでは、何日間もその話題で持ちきりだった。そのかわりに子どもたちはここに来たわけだが、ティードの体の前に並んだときも、だれひとり不平をこぼさなかった、と当時のおとなは記している。

 ティードはもはやかれらのマスターには見えなかった。もともと小柄な人間だったが、いま、パンパンに膨らんでいた。ワイマーが言ったように、彼がホルスであるとかれらは同意した。「非常に大きなケンカ早いやつ」とある女性は書いている。「もっとも黒いエジプト人なみに黒い。わたしは何度も、何度もそれを見たがった」。実際、多くの人がホルスのような肉体について言及している。ワイマーは人々が部屋に入る前、ティードの姿にゾッとさせられるかもしれないと警告したが、かれらはそうは考えなかったようだ。かれらにとって、ティードはまだ美しかった。香りも悪くなかった。ひどいにおいと感じる人々もいたようだが。においが強くないのには理由があった。なぜなら体のあらゆる穴が膨らみ、その先端が密閉されて封印され、それによって変容が許されると人々は信じたのである。驚いたことに、かれらは写真まで撮っている。

 ティードのお気に入りの看護婦は、逝去する前日に見た彼の夢を覚えていた。大きなさなぎが椅子に座っていた。そしてその頂の部分がポンとあいた。何かがニョキニョキと出てきて、回り始めた。するとマスターの頭そっくりのものを上にのっけた。そのとき人々は体を調べていて、腕の体液のなかに新しい生命が形成されるのを見ていた。

 ティードの妹のエマだけはつぎのように述べている。「これらのものは墓に納めなければならない」。しかし信者たちは遺体を墓に入れたくなかった。

 看護師は言っている。「わたしは神が体のなかにいらっしゃるのを知っています。そして虫がそのすべてを食べ、四散していくまで、ここに残ります。でなければ信じてしまうかもしれませんから」

 

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