6 城を滅ぼし、ペマ王女のもとにある薬宝を手に入れる 

 ケサルは輝かしい日光と言う名の洞窟に戻りました。そして任務を成し遂げるための瞑想修行の最終段階に入りました。 

 五日五晩ののち、太陽、月、星々、山々、森、これらすべてが、邪悪な呪術師の力を破壊し、すべての善良な人々のために行動を起こすときが来たことを伝えました。 

 彼は城にやってくると、トランペットを三度吹き鳴らしました。そして5つの分身を作り、それらは彼の脇から出現しました。  

 この5つの魔法の体のうち4つの体は、それぞれ4つの方角から、光線のように城に向って飛翔しました。彼らの体からは炎があがり、足から発せられる火の舌は地面を這い、まるで大地そのものが火を吐いているかのようでした。 

 突然風が起こり、うず高く積まれた薬草の山が炎に包まれました。わずかな間に塔全体が燃え上がり、制御不能になりました。ごうごうと鳴る風は火炎をさらに大きくし、怒り狂う火炎嵐のようになりました。火の玉ははじけて天高く飛び、漂う煙はインドや中国へ通じる地平線を暗くしました。人々は呪術師に真っ暗になったことの意味についてたずね、災難から守ってくれるよう祈りました。 

 その間、ケサルの5つめの魔法の体は、城の一番奥にあるペマ王女の部屋に飛んでいきました。魔法の体があらわれても、王女は驚きませんでした。そして教えられなくても、何をすればいいか知っていました。彼女は水晶の金剛杵の上に乗りました。それはじつはケサルの飛ぶ馬、キャンシェでした。キャンシェは王女をのせてケサルの洞窟に運びました。 

 王女の目の前で、5つの魔法の体がひとつになって虹となり、ケサルの体の中に入りました。それを見た王女は驚き、畏れをいだきましたが、その目はらんらんと輝いていました。 

 ケサルは言いました。 

「ペマ王女さま、おそれる必要はありません。私がだれであるか、いま、明かすことができます」 

 ケサルは堂々と言いました。 

「私はリンの王、ケサルです。私はあなたや人々を、邪悪な呪術師たちの呪文から解き放つためにやってきました。かつて、魔法のような薬草は大地に自由に育ち、だれもがそれを自由に使うことができました。しかし呪術師たちやあなたのお父さんは、しだいに貪欲になっていったのです。彼らは植物を隠し持つようになり、どのように使うかという知識を秘密にしたのです。彼らは呪術のために薬草を用い、彼らの邪悪な力を増強させていったのです。そして人々を奴隷の地位に貶めました。 

 いまこの貪欲の力は破壊されようとしています。人々は解放され、薬用植物はすべての人々が使えるようになったのです」 

 ケサルを見たペマ・チョツォは、彼が王にふさわしい輝く戦士の甲冑を身にまとっていることに気がつきました。彼のやさしいほほえみはペマ王女の心をいやしました。そして心を希望で満たしたのです。

 賢い王女は自己中心的で残忍な父親の姿を、また呪術師たちが人々を苦しめるのを見てきました。それだけに、薬草がだれにも使えるようになったと聞いて喜びました。

 王女とケサルは青銅の城にもどりました。それは大火にもかかわらず、奇跡的に残っていたのです。ケサルは弓を壁に向って射ました。すると壁は吹き飛び、地下に埋まっていた秘密の書籍が出てきました。 

 ケサルは書籍の一部は自分のものとし、一部は安全のために王女ペマに託しました。それからふたりは輝く日光の洞窟にもどりました。 

「すぐに、このお城で発見された教えは、近くに住む王にあきらかにされるでしょう」とケサルは言いました。「教えはそこからさらに、広く伝わっていくでしょう」 

 ケサルはつづけます。 

「この洞窟の奥深くに、黄金の箱があり、そのなかに魔法の知識の本があります。ペマ・チョツォよ、いまこそあなたがこの教えの守護者となるときです。まずあなたはここで私の生徒として一か月学ばねばなりません。それから3年間、この洞窟で隠遁生活を過ごし、完全に成就するまで教えを実践しなければなりません」 

 ペマの心は喜びに満たされました。彼女はやさしく言いました。 

「ケサル、これ以上の望みはありません。このすばらしい教えを学び、実践する機会が与えられたことに、深く感謝します。この教えを徹底的に理解するまで、昼も夜も学びたいと思います」 

 翌月、ケサルとペマは、つまり教師と生徒は、洞窟に坐り、洞窟に埋められていた尊い書物の教えの奥義を学びました。 

 ケサルは言いました。

「任務を終え、リンの王国にもどる時がやってきました。さようなら、ペマ・チョツォ! あなたに教えたことを忘れないでくれ! 学び、忠実に実践してほしい。3年のうちにあなたは他の者に教えることができるようになるだろう」 



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