8 ケサルの帰還ともたらした薬用植物
その夜、女神マネネがケサルの妻ドゥクモの夢の中にあらわれました。天界の宮殿のなかで、彼女は美しい王妃たちにもてなされていました。突然王妃マネネが彼女のほうを振り返り、そして言いました。
「あす、英雄がリンの国にやってきます。彼のことをけっして忘れないように。準備なしで応対したくないでしょうから」
それから彼女とほかの王妃たちは虹のように虚空に消えました。
すぐにドゥクモは起き上がり、太陽が昇ろうとしているのがわかりました。彼女はリンのすべての武将たちに、ケサル王が今日にも帰還しようとしている旨を伝えました。
午後、馬に乗ったケサル王があらわれると、宮廷の人々が歓迎しました。そしてリンの国民すべてが集まり、王の帰還を祝福しました。
「ケサル王! ケサル王! おかえりなさい! ケサルさまをまた見られるとは、なんとすばらしいことでしょう!」 と最初にケサルを見た見物人たちが叫びました。しかし、出発したときとおなじようにケサルの手には何もなく、同行者がだれもいないのを見て、何事も成し遂げなかったのではないかと人々は心配になりました。これでは喜びも半減します。
ケサルには人々の考えていることがわかりました。彼はすでに武将たちに、宮殿の屋根の上に行くよう命じていました。彼は頭上の空のほうを指差しました。そこには男たちが薬用植物が詰まった袋を屋根の上から投げ下ろす姿が見えました。だれもが驚き、爆笑してしまいました。
「ケサル王はなんとすばらしいおかただ! 約束通り、魔法の薬草をわれらに贈ってくださったのだ!」と人々は叫びました。
それからケサルは王妃ドゥクモや国の人々と楽しくすごしました。みな国王の帰還と薬草の贈り物を感謝する祈りを捧げました。薬用植物はよく役に立ち、人々が病気にならないように使われました。ケサルはこれら薬用植物と、九頭をもつ怪物たちから奪った宝石を守りました。なぜならそれらは、つぎの冒険のときに威力を発揮することになるからです。