2 呪術師ラトナの失敗 

 しかしトトンは臆病者で、子供の魔法の力が恐くてたまりませんでした。そこで翌日、この地方でもっとも冷酷な呪術師を探しました。探し当てたのは、おぞましい顔をした邪悪者ラトナと呼ばれる男です。この呪術師に黄金やその他の宝石を贈り、ケサルを殺すよう依頼したのです。

 欲深い呪術師は暗い洞窟にこもると、呪術をかける準備を念入りにしました。そして邪悪者ラトナは洞窟の入り口まで出てくると、そこから野原で遊ぶケサルめがけて、激しく光る輝く雷光を投げました。ケサルは手をあげて盾のようにかまえ、雷光をそれで反射して、ラトナに返しました。

 呪術に失敗したことに腹を立てたラトナは、カミソリのように鋭利な爪とナイフのように切れる嘴(くちばし)を持った3羽の怪鳥に少年を襲わせました。襲いにやってくる鳥の姿を見て、ケサルはおもちゃの弓を取り出し、矢のかわりの木の棒を放ちました。それらが3羽の怪鳥の心臓を貫くと、鳥は砕けて100の黒い影となり、すみきった青空に消えていきました。

 魔法の鳥が帰ってこないので、ラトナは山の頂上に登って鳥の姿を探しました。下の谷で薬草を集めているケサルを見ると、ラトナは人よりも大きな岩塊を持ち上げ、ケサルの行く道の先に投げつけました。ケサルが見上げると、山頂にラトナが立っていて、そこから岩塊が飛んできます。ケサルは笑いながら、その岩塊をラトナの足元に棒で打ち返しました。

 トトンのもとに戻ってきたラトナは、敗北を認めざるをえませんでした。

「あの子供の魔法は、わたくしが見たなかで、もっとも強力でございます。これ以上戦っても、わが身はもちこたえられそうにもありません」

 そう言うと、ラトナはトトンに背を向け、さっさと自分の洞窟に帰っていきました。

 怒り心頭に発す、といった様相のトトンは、あらたにケサルをなき者にする計略をたてました。国中から有力者を集めて、会議を開催し、そこでケサルは悪霊であり、もしこのままリンにとどまれば、人民に多大な災難をもたらすことになると糾弾しました。王国の安全のために、ケサルはいかなる町や村からも遠い、北方の砂漠地帯に放たれるべきだというのです。

 トトンに恐れをなしている有力者たちは、さからおうとはせず、みな賛意を表しました。これらのなかにはケサルの成長ぶりを見て、いつの日かトトンを打ち破る力を身につけるのではないかと期待する人々もいました。もし彼が予言された王となる者であるなら、たとえ北方のようなひどい土地に追放されても、神に守られるはずです。

「時が来たら」と彼らは考えました。「ケサルはリンにもどってくるだろう」


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