3 砂漠に追放されたケサルと母ゴクモ
このようにして、ゴクモと息子ケサルはリンの美しい谷を去ることになったのです。彼らが出ていくとき、見送る人々の列が何百もできました。人々の目には涙があふれ、だれもがケサルの安全な帰還を願って祈りの言葉を唱えました。
ケサルは母の馬を牽きながら、歌いました。
心配しないで。
困ればナキウサギが助けてくれるから。ハゲワシが消息を伝えてくれるから。
おいしい草の根で晩餐が食べられるから。青い空が心をなごませてくれるから。
北方の荒地を征服するのもぼくの役目。
ケサルはどこへ行くにも成し遂げるべき事業があるのです。
ケサルとゴクモは何日も危険な山岳地帯を進んでいきました。その道が北方の砂漠へ通じていると信じて。はじめ彼らは他の数多くの旅行者と会い、遊牧民は家畜の世話をしている野営地をいくつも通り過ぎました。それから彼らは、だれも住んでいない、めったなことでは人が入ろうとはしない土地にさしかかりました。突然嵐が襲ってくることもある、数々の危険がかくさた、人里離れた荒地の地域に入ったのです。
ケサルは母の馬を牽いて広大な平原の端に着きました。
「あちらをご覧ください、お母さん。われわれの新しい家が見えませんか」
「息子よ、わたしに見えるのは岩と砂と背の低い植物だけです。食べ物も、水も、生き物も見えません。おまえの魔法といたずらによって、こんな何もない荒地に連れてこられるなんて」
しかし小さな丘の陰に泉があり、水晶のような純粋な水が湧き出していました。その近くに、ケサルとゴクモは冬の寒い風を防ぎ、厳しい夏の日差しから身を守るのに十分な、ささやかな小屋を建てました。
ケサルは鹿と走り回ったり、砂地に掘った居心地のいい穴に住む恥ずかしがり屋のナキウサギと遊んだり、探検ごっこをしたりして日々を過ごしました。夕方、ケサルはかならず根っこや野イチゴを持って戻ってきました。母親はそれらを使っておいしい食事を作りました。
夜になるとケサルは魔法を使って変身し、北方に住む怪物のようなバケモノと戦いました。突然嵐を起こしたり、岩を落としたりするのはこのバケモノです。彼らの正体は悪魔が取りついた人間や動物です。ケサルはじょじょにこれらを支配下に置くようになり、生きるものに害を加えるのをやめ、彼を助けることを誓わせました。
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