6 駿馬キャンシェを捕える 

 翌朝早く、ドゥクモとゴクモは遠くの牧草地へ向かいました。馬の群れが山の尾根から草の多い谷間に降りてきて、優雅に草を食んでいる様子が見えました。ドゥクモは群れのなかにキャンシェがいるのを確認しました。その赤い肌は日光のもとで光り輝いていました。ほかの馬のなかから躍り出て、その蹄は地面に触れるか触れないかで、あたかも宙を飛んでいるかのようでした。

「キャンシェ、こっちに来て!」とドゥクモは叫びました。「わたしはとてもいい轡(くつわ)を持っています。それにとてもすばらしい主人を紹介できます」

 キャンシェは彼女の言葉を聞いて頭をあげました。そしてはっきりと言いました。

「ケサルは私を手なずけるのに、失敗しましたよ。彼はほかの馬を探さなければなりません。私は長い間ひとりで生きてきましたから、いまさら主人などいらぬのです」

「あなたを呼んでいるのはこのドゥクモです。ケサルではありません」とドゥクモは言いました。「わたしはあなたの好物の麦粉と砂糖を持っています。わたしは、驚異の馬キャンシェに乗って冒険をするケサルの歌をうたってあげましょう」

 ドゥクモがとてもやさしい、美しい声で歌ったので、キャンシェはうっとりと聴き入ってしまい、ゴクモがすぐわきにまで近寄ってきていたことに気づきませんでした。一瞬のすきをついて、ゴクモは投げ縄をキャンシェの首にかけ、その背中に飛び乗りました。

 キャンシェはゴクモを乗せたまま、空高く飛び上がりました。いまやゴクモは、雲間を疾駆する駿馬にまたがったまま、リンの馬小屋がどんなにすばらしいか、主人となるケサルがどれだけキャンシェを必要としているか、説きながら、やさしく歌いました。キャンシェは次第に落ち着きを取り戻しましたが、依然として地上に戻ろうとはしません。

 ついには山の頂上に、無敵の戦士、ケサルが立ちました。彼はキャンシェを指差し、鞭を鳴らし、力強い声で地上に戻ってくるよう命じました。

 ひととびで、この並外れた馬はドゥクモのところにやってきました。いま、キャンシェはおとなしく、ドゥクモが与えた砂糖と麦粉を食べています。ドゥクモとゴクモは喜んでキャンシェをケサルのもとへ牽いていきました。

 キャンシェが鼻をすりよせてくると、ケサルの表情もほころびましたが、感謝の言葉は口にしませんでした。ドゥクモのほうを向いて、目を輝かせながら、ケサルは言いました。

「ぼくは鞍を持っていないのだけど、この馬をどうしようか? 甲冑もないのに、リンの英雄たちとどうやっていっしょに馬に乗って出かけることができようか」

「ああケサル、水晶の洞窟へ行く道の行き方を教えてください。わたしがそこで鞍と甲冑を取ってきます。そうしたらキャンシェに乗ってリンに戻り、競馬に参加して勝利をものにしてください」

「ぼくが教えるまでもないだろう」とケサルはこたえました。「探しに出さえすれば、かならず、見つけることができるだろう。あなたがぼくを見つけたように」


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