7 水晶洞窟へ
翌日、ドゥクモは水晶の洞窟に向って出発しました。はじめ、道がよくわかりませんでした。しかし山岳地帯の奥へ進むほど、歩みはたしかなものになっていきました。
岩だらけの山肌を歩いていると、小さな鹿の姿が目に入りました。鹿は山に吸い込まれるように消えました。そこへ行くと、人間ほどの大きさの岩の隙間がありました。そのなかに入ると、長い通路のようになっていて、その奥のほうからやわらかな光が漏れてくるのです。
通路を歩いていくと、ごつごつした灰色の岩壁が現れました。それには透明な水晶の筋がまじるようになり、ついには水晶の壁に囲まれた部屋へと通じていました。そこからやわらかな白い光が発せられていたのです。彼女の前には鹿が立っていました。そのほうに近づくと、鹿はいままで見たことがないような美しい女に変わっていました。
「ドゥクモよ、私は財宝を守る女神です。あなたはこの財宝を受け取るにふさわしい方です。これをケサルに渡してください。そうして与えられた使命を達成してください」
女神は現れたかと思うと、消えていきました。女神が立っていた場所を見ると、そこには見事な技巧を施した鞍、豊かな毛織物の毛布、黄金の轡(くつわ)、すばらしい甲冑一そろえがありました。
ドゥクモはこれらを両腕にかかえ、これだけのものをどうやってケサルの小屋まで運べばいいのかしらと考えました。と、このとき、洞窟の入り口のほうからケサルの聞きなれた声が響いてきたのです。
「ドゥクモ、こっちへおいで。そんなに遠くないから」
甲冑や鞍を背中に担いで、彼女はよろめき、つまずきながら、なんとか洞窟の入り口に達しました。そこにはうれしいことに、ケサルと駿馬キャンシェイが待っていたのです。
ケサルはやさしく轡や鞍、甲冑を受け取りながら、言いました。
「ドゥクモよ、あなたはすばらしい勇気を見せてくれました」
ケサルが黄金の甲冑を肩に担いだとき、彼女が砂漠で見たひとり遊びをする乞食のような少年の姿は消えていきました。そこに立っていたのは、王の姿です。何千もの兵隊に命令を下し、叡智と思いやりでもって国を統治する大王の姿でした。
「ドゥクモよ、ぼくのほんとうの姿を見たのはいいことだ。でもしばらくは乞食の姿に扮していたいと思うんだ。ほかの人々も試されなければならないからね。もしぼくが乞食のかっこうをして、それでもリンの有力者たちがぼくの本質を見ることができるなら、王としてたくさんのことが達成できると思うし、リンの名声ははるか遠くにまで轟くことになるだろう。
ドゥクモよ、先にリンに戻ってほしい。そして乞食のケサルを見つけた、もうすぐ仔馬に乗って戻ってくる、と触れ回ってほしい」
ドゥクモはケサルと離れがたい思いをしながらも、先に出発しました。できるだけ急いでリンに戻り、彼女はケサルを発見したこと、競馬の競技には間に合うとだけみなに伝えました。しかし彼女を見た者、話しかけた者はだれもが彼女の変化に驚きました。輝かしい笑顔ややさしい仕草などは変わっていないのですが、彼女の目にあたらしい勇気と喜びが光っていたのです。
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