天然痘で壊滅状態の村

 リタンからパタン(’Ba’ thang)へ行く途中、道から離れたところに村が見えた。これも何かの縁だと思い、村に入ったが、だれもいず、しんと静まり返っていた。一軒の家の中に入ると、十二歳くらいの女の子と九歳くらいの男の子がいたが、ふたりとも疱瘡を病み、虫の息だった。母親は天然痘にかかって死んだらしく、ミイラ化して、囲炉裏の前に横たわっていた。

 この凄惨な光景を目にして悲嘆の情をかぎりなく覚え、おかゆを煮て、子供たちに食べさせようとした。昏睡状態にあった子供たちに、次第に意識がもどってきた。また死んだ母親を弔うため、回向祈願の経を唱えた。遺体の腐乱は激しく、悪臭を放っていたが、気持ちを奮い起こして、袋詰めにした。それを背負い、重いのに耐えながら、遠く離れた谷間に持っていった。

 このあと子供たちの様子を見るため、何日かとどまった。ある日、子供たちの叔父という人がやってきたので、子供たちを預けた。そのまま出発しようとすると、彼らは「見捨てないで!」と泣き叫んだ。去りがたかったが、食べ物をすべて与え、数日ののち、夜の間に去った。

[訳注:無頭男のエピソードが現実的でないのに対し、この壊滅状態の村のエピソードは実際に起こったことが話の核となっている。回向祈願の経とは、仏教の枕経である。いわゆる「死者の書」も、枕経の一種だ。彼にできることは、魂を送ることだけだった。子供たちの叔父がやってきたので、子供たちの世話を任せて、夜、彼は逃げるように去らなければならなかった。高僧のミラクルで天然痘を治療するわけにもいかなかったのだ] 




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