北京でかつての飼い犬と邂逅

そのころ(元チベットの宰相)デシ・サンギェ・ギャツォの子デパ・ンガワン・リンチェン(sDe pa Ngag dbang rin chen)やデパ・マクソル・ツェリン(sDe pa dMag zor tshe ring)、デパ・ンガワン・ツォンドゥ(sDe pa Ngag dbang brtson ’grus)と子女一名、ドゥンコルガ家(Drung ’khor ’ga’)の者および奴婢ら二、三十名がラザン汗によって北京に送られてきた。ある日尊者が安定門から城内に入ると、彼らが徳勝門の路上を引き立てられるところだった。

 立ち止まってその様子を眺めていると、チベットからくっついてきた犬が走り寄ってきて、しっぽを振りながら尊者にじゃれつき、舐めまわした。尊者は感慨深く思った。

「ああ! 輪廻のなんたる虚妄。この移り変わりの激しい世、なんとも皮肉なこと。この年になるまで、故郷を離れて以来、故郷の者とだれひとり会うこともなかったのに、このしゃべれない動物が(故郷から)会いに来たなんて。この犬はなんという不思議な能力をもっていることだろうか。あわれなる動物よ」。

 そう考えながら、心の中には悲しみがもたげてきた。このとき以来犬は尊者のもとを離れず、モンゴルへ戻るときもいっしょだった。のち犬が死んだとき、尊者は丁寧に法事を営み、弔ってやった。

 話はもどるが、デパ・ンガワン・リンチェンらが尊者に謁見することができず、ともに連行されたデシの子女が、自分の指輪をはずし、(彼らの処刑後)回向の法事を行なうことを見越して、お礼としてそれらを尊者に渡した。 



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