尊者、死んだ医師を蘇生させる
病院長であり、皇帝の主治医でもあった医学大師クンサン(sMan rams pa Kun bzang)が病に倒れた。大師と親しいチベット人はアルシャーの王妃ケケ(Ke ke)から尊者のことを聞いていたので、大師にその旨を伝えた。尊者は呼ばれて病院にやってきたが、大師の病はひどく、がりがりにやせほそり、手の施しようがなかった。尊者の顔も認識できなかった。
尊者はこの光景を見て感傷的な気持ちになった。「私が来たことさえわかっていないようだ」と考え、下の者に伝えた。
「どうか私の念経の声が届かないところまで離れてください。これから病魔を駆逐する儀礼をおこないます」。
下の者全員が離れ、しばらくすると大きな声が聞こえてきた。
「医師クンサンよ! 私がわからないか!」。
クンサン大師は寝台の上に寝ていたが、尊者の声が聞こえると、たちまち立ち上がり、尊者の顔を見たかと思うと、根を切られた大樹が倒れるように、前かがみに倒れ、意識を失った。尊者が急いで聖水を大師の顔にそそぐと、ともかくも息を吹き返した。
「こんなに見えるものが変わるなど夢にも思いませんでした。あやうくこの地で客死してしまうところでした。昼も夜も祈祷してくださいました。実際、悲しみがひどく、それがもとで心膜に水がたまり、病気になってしまったのです。一般の人はこんなことなら私がいっそ死んでしまったほうがいいと思うでしょう。しかし聖人や賢者のことを凡人がどれだけ理解できるでしょうか。あなたはこういったことをすべて熟知していらっしゃるでしょう」と言って号泣した。
意識がはっきり戻ったあと、重ねてこの世において、また来世において安全で、病気にならず、災いに見舞われないよう大師は祈った。大師はまた、謝礼として、中原から出土した香炉やカタなどとともに、十両の黄金を尊者に贈った。
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