アガルタ        

31 人類生誕の地、アフリカ 

 

「人類生誕の地である地上の王国の真下にいることを、ときおり、われわれは思い知るんだ」。翌日、ホバークラフトの中に坐っているとき、マヌルはややあいまいな口調で語った。

「それはどこなんですか」ぼくは聞いた。

「アフリカだ!」と答えが返ってきた。

「アフリカってとてつもなく大きいよね。たくさんの土地があるし、部族もたくさんいるし」ヴァレンチノが考えながら発言した。「で、ぼくたちはどこに行こうとしているの?」

「すぐにわかるだろう」アルベルトは議論は許さないといった声の調子でこたえた。乗り物はゆるやかに砂の上に円を描きながら着陸した。間違いなくそこは砂漠だった。

 それはわれわれが必要としていたものだ、とぼくは考えた。アフリカの砂漠に生まれた部族。ぼくはホバークラフトの入口ステップに坐ってティッチの鼻から砂を払い落そうとした。ヴァルとふたりのマスターは人が住んでいないと思われる地点を歩いてまわっていた。そのとき大きな甲高い叫び声が聞こえた。それは次第に大きく響き渡ってきた。

 突然どこからともなく三日月形の槍を持った褐色の肌の戦士たちが現れた。彼らは褌(ふんどし)以外は裸で、肌は太陽の光のなかでキラキラ光っていた。彼らは全身に白いストライプや文字を描き入れ、頭は羽根で飾っていた。何人かは羽根を頭の後ろに着け、鳥のように見えた。彼らは目をクリクリと動かし、恐れているかのようだった。ヴァルはマスターたちのもとに寄っていった。彼らは部族に向かって両手を差し出していた。

 驚いたのは、彼らの手のまわりに巨大な虫のような光の輪がうごめいていることだった。部族の連中は一歩下がり、アルベルトとマヌルの前でひざまずいた。

 光の輪はあきらかに強い印象を与えていた。少なくとも7フィート(210センチ)はある男がグループの中で立ち上がり、こちらに近づいてきた。彼が話したことはぼくにはさっぱりわからなかった。しかしアルベルトは彼に話しかけていた。長い会話だった。最後に背の高い男はついてくるよう手で合図したので、われわれもあとから進んでいった。

 われわれはまだ砂漠にいた。しかしわれわれだけでなかった。小さくて円錐形の小屋がきわめて青い空に影を投げかけていた。そこから煙が立ち昇っていた。

 褐色の肌の、タイトに巻いた髪を頭の上に束ねた若い女が近づいてきた。彼女はこのあたりでは珍しく、妙に美しかった。腰には黄金の布を着け、体に黄色や金色を塗り、宝石でたっぷりと飾り付けていた。彼女はマスターたちの前に立つと、みな互いにお辞儀をした。腕や首、腰には金粉がきらめいていた。黄金のサンダルを履き、足の上でレースが結ばれ、黄金のリボンで締められた。彼女の肌は背の高い男よりもさらに黒かった。

「こちらは黄金の女王、ヨーラです」背の高い男は彼女を紹介した。「あなたがたは人類の生誕の地、ウーリアにいます。ここは地上のすべての種族の起源地なのです」

 彼が話すことを理解することができた。黄金の女王が話し出すと、やはり理解することができた。われわれは砂の上に坐り、女王は運ばれてきた黄金で編まれた太陽のように輝く玉座に腰を落ち着けた。

「あなたがたよそ者は生誕の地を見たがっているようですね」期待した以上に耳障りな声で彼女は言った。「この村は地球の表面がまだ固まっていない頃に造られました。天は神に似せてわたしたちを作りました。天はわざわざわたしたち人間を存続させてきました。わたしたちは地上に行きました。そこで裏切られ、失望したのです。

「生き残った者たちはここに戻ってきました。わたしたちが天の真の子供たちだと確信していた人々に裏切られてしまったのです。彼らは悪の王の戦争、力、利己主義に助けられたのです。悪の王のパワーは今も残っています。王の名はアヌ、彼の信奉者たちはアンヌナキと呼ばれています。最終的に王と信奉者たちは彼ら自身の惑星へ逃げていきました。

「天の子供たちの一部は幸い、寛容さや愛、誠実さを取り戻すことができました。彼らは今わたしたちを助けてくれています。わたしたちは大切な親戚である地上の様子を見て嘆き悲しんできました。しかしわたしたちの嘆きは喜びに変わりました。つまりほかの惑星の助けを得ることができたのです。いまUFOにのって地上を訪問し、この彼らからのすばらしい授かりものについて、地表居住者を啓蒙するという計画を持っています」

「上のように、ゆえに下のごとく」ぼくは彼女の話をさえぎった。「それはどこから来るのですか?」

「それは天が教えてくれたまさに最初の神意でした」女王は答えた。「そうなるよう運命づけられていたのです。そして将来もそうなるでしょう。知識とは、エゴが精神に勝利したということを意味します。これが起きたことなのです」

 地上の暑い夏の日のような暖かい日だった。わたしたちは冷たいドリンクでもてなされ、魅力的な母なる女王(クイーン・マザー)との会話に花が咲いた。彼女が母なる女王であり、そこが宮廷であることはあとでわかるのだが。地上では地球がそんなにも古く、文化に相当の厚みがあることを知らないのだ。

 女王ヨーラは聖歌隊を持っていて、彼らはマドリガル歌曲のような歌を合唱した。それらはヤギ飼いの放牧歌だった。ヤギは地上で慣れ親しんでいるものより角が長く、毛が短かった。それは暑さのせいだった。

 村はかなり大きく、広範囲に散らばっていた。砂丘と砂漠がちょうどわれわれが着陸したあたりで終わっていた。丈の長い草と花々がそれに取って代わった。ランに似たサボテンの花もその中にあった。ぼくはランの花を見たことがなかった。人々は黒人と白人の両方があった。ヨーラ女王が言うには、すべての人がともに暮らすのは天のオリジナルの計画だった。しかし地上の人間が増えるに従い、違いも大きくなった。

 「町」に入ると、家々も姿を変えた。より普通の家が増えていった。つまりほとんど土壁と葺いた屋根付きの英国のコテージのようだった。煙突は存在しなかった。あまりにも暑くて調理も外で行われたからだ。キッチンはブースのようだった。食べ物から察するに、彼らは最高の料理人だった。

 出発の準備が整うまでにわれわれは音楽、特上のベジタリアン食、そしてこの魔法のような場所から出てくる歓喜に圧倒されていた。

「中国にも行こうとしているの?」興味津々のヴァルがたずねた。

 マヌルはクスクス笑った。「明日になったらね。今は家に帰る時間だ。ジャングルで迷子になったんじゃないかとシシーラが心配するといけないからね」

 家に戻ったら、もう一つ、サプライズがあった。玄関でスウェーデンのダラルナから来た友人のカオスがぼくを出迎えてくれたのだ。わが愛する妻は彼の後ろに立っていた。

「わたし今、パーティを企画しているの」妻はそう言った。「旅から帰ってきたばかりの人にはリフレッシュと食べ物が必要よ。もう少し時間がかかるから、ふたりでおしゃべりでもしていてね。ゲストがいるって意味李―にメッセージを送ったところなの」

 カオスはどうしても自分の話をしたかった。彼はすでにシシリアと懇意になり、わが人生の友とも仲良くなって喜んでいた。どうやってここに来たのかとたずねると、彼は喜んでこたえた。「しばらくはすべてが順調だったんだ。でもきみときみのおばあちゃんが去ったあと、楽しいことが何ひとつなくなっちゃってね。エミリーとぼくはアガルタについて議論したんだ。情報はできるだけかき集めた。それほど多くはなかったけど。それでマウント・シャスタ行きのフライト・チケットを予約して、今ここにこうしているわけさ。テロスに着く前は、ちょっと恐い体験もしたよ。そしていろんな人にきみのことを聞きまくった。だれもがきみのことを知っていたよ。

 ここにいるなんてすごいな! どんだけここにいるかはわからないな。永久に住むかもね。どう考える?」

「きみを失ったスウェーデンの友人たちのことを思うと、心が痛むよ。きみが来てくれたことはほんとうにこの上なくうれしいけどね」ぼくはそう言って彼をハグした。ぼくは彼にここがどんなに驚くべき、魔法のような国であるか、語った。そして好きなだけいればいいと言って安心させた。冒険について語り始めたら、夜中過ぎまでかかってしまいそうだった。スウェーデンははるかに遠くへ行ってしまったかのようだ。おばあちゃんはわれわれの友人に会って喜びにあふれていた。そして彼女にも語るべき物語がたくさんあった。

 

⇒ つぎ