(15)ナイル源流はルヴィロンザ川か、ニュングウェの森か 

 
ナイル源流探しに話を戻そう。おもな水源としてはヴィクトリア湖ということでほぼ確定されようとしていたが、確定されれば、それにそそがれるもっとも長い川の源がナイルの源流ということになる。

 
カゲラ川源流こそナイルの源流であると自身の著作(1894年)で最初に主張したのは、オーストリア人探検家オスカル・バウマン(1864-1899)である。源流はタンガニーカ湖の北東に位置するミッソシ・ヤ・ムウェシ山脈(月の山脈という意味)にあるとした。そのあたりの地域はチャロ・チャ・ムウェシ、すなわち月の地、人々はムワナ・ヤ・ムウェシ、すなわち月の人々と呼ばれるという。この説は、バウマンが35歳の若さで病死したためか、その後立ち消えになった。

 
カゲラ川の源流は厳密に言えばルワンダ・ブルンジ国境上のルエラ湖である。しかし現在のナイル源流がカゲラ川にそそぐルヴブ川にそそぐルヴィロンザ川の源流と考えられているので、バウマンの主張は当たっているともいえる。ただこのミッソシ・ヤ・ムウェシ山脈がどれのことかわからない。「月の山脈」をイメージさせる山は雪山でなく(雪山はない)火山だが、コンゴ、ウガンダ、ルワンダの3か国が接するあたりには、火山がたくさんある(ニーラゴンゴ山、モン・ミケノ、カリシンビ山、モン・ヴィソケ、ヴォルカン・ソビニョ、ヴォルカン・ガヒンガ、マハヴラ・ヴォルケーノ)。古代ギリシア人に強い印象を与えるほどの山は実際見つかっていない。

 ドイツ人探検家リヒャエル・カント(Richard Kandt 1867-1918)は1898年、カゲラ川の支流をさかのぼってルワンダ南西部のニュングウェの森の水源にたどりついた。2006年、英国・ニュージーランド共同チームはニュングウェ森林公園のなかにあらたに源流を発見している。この様子を映したドキュメンタリー番組は、BBCで放映された。しかし報道によると、のちに検証した早大探検部は、この源流は分水嶺の西側にあると指摘し(つまりコンゴ川に流れ込む)、分水嶺の東側に、独自に源流を発見している。ニュングウェの森は依然としてナイル源流の第一候補だ。地図をアップしてみると、カゲラ川上流のニャバロンゴ川が大きく北部のほうを回っていて、相当「走行距離」を稼いでいるように見える。源流までの川の長さはルヴィロンザ川を上回っているかもしれない。

これまで長らくナイル源流の最有力とみなされてきたのは、ブルンジ・ブルリ県にあるカゲラ川の支流のひとつ、ルヴィロンザ川の源流だった。ルヴィロンザ川源流がどこにあるかは諸説あるが、ブルンジ国内であることはまちがいない。川の距離でいえばニュングウェの森に源を持つニャバロンゴ川に軍配が上がるかもしれない。しかしもっとも南にある源流であり、ナイル河口からもっとも離れた源流であることはたしかである。



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