Ⅳ ルウェンゾリの歴史 
(16) バコンゾ族の神話 

 西欧列強がやってくる前、アフリカにはどんな歴史があったのだろうか。つねに部族同士で戦っていたのか、それとも動きの少ない、比較的穏やかな、平和な時代が何千年もつづいていたのだろうか。ルウェンゾリ山地に古くから住んでいたバコンゾ族はどうだったのだろうか。

 エルゴン山(ウガンダ、ケニア国境上の標高4300mくらいの火山群)から七百年前にやってきたという伝承がある。エルゴン山に住む人々とバコンゾ族はなぜかよく似ているという。高い山を神聖視し、崇める人々がエルゴン山からルウェンゾリ山に移住したのかもしれない。

 しかし記憶にないはるか古代からバコンゾ族はルウェンゾリに住んでいるという伝承のほうがわたしは好きだ。彼らの祖先はルウェンゾリの数ある洞窟の一つから生まれたという。ルウェンゾリ自体が母であり、子宮なのだ。わたしのように、洞窟のなかで水脈が奏でる音楽を聞き、地下深くに祖先の住む世界があると想像した人がいたかもしれない。ルウェンゾリはナイル川の水流を支える供給源と言われるほど降雨が多い地域だ。それは家畜(ヤギ、ヒツジ、家禽類)を含む動物や作物(ヤム、豆、サツマイモ、ピーナツ、大豆、ポテト、米、麦、キャッサバ、コーヒー、バナナ、木綿)を含む植物にとって恵みの雨ということでもある。ルウェンゾリは豊かさの象徴だった。

 エジプトのプトレマイオス王が遠征中にルウェンゾリ山に住む背の低い頑強な男女を見かけたという報告がある。彼はこの人々が割礼の習慣を持ち、樹皮布を腰にまとっていたと記録している。彼はまたこの山地を月の山脈と呼んだ。もちろんこれは伝説というより、生半可な西欧の知識がごっちゃになった後世の伝説だ。エジプトにはたしかにマケドニア人のプトレマイオス朝(BC305-BC30)があったが、それと月の山脈について言及したアレキサンドリアの大博学者プトレマイオスは別人である。

 バコンゾ族の祖先はナルバ湖(Naluba ヴィクトリア湖のこと)付近からやってきたという伝承もある。ブガンダ文化遺構のカスビ墳墓の出土物は、二つの部族(バコンゾ族とバアンバ族)がブガンダ族の地域から逃げ出したことを示しているという。彼らはカバカ(ブガンダ王)のために泥の舟を作り、それが壊れたため、乗っていたブガンダ族兵士が命を落とした。

 もう一つ、東コンゴの北キヴ州 のイサレ地区(Isale)からやってきた移民という伝承がある。彼らはルウェンゾリの斜面や洞窟に住み、その他の人々はトロ王国の領域に住んだという。この伝承だと何の面白みもないが、実際はこういうものなのだろう。



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