ドラマの冒頭の名ナレーション。原語で何と言っているか聞いてみると……
ドラマの冒頭、テーマ音楽とともに「奥さまの名前はサマンサ。そして旦那様はダーリン。ごく普通の二人はごく普通に恋をして、ごく普通に結婚しました。でも唯一違っていたのは、奥様は魔女だったのです」というナレーションが入る。
原語では何と言っているのだろうと思って音声を切り替えると……何も言っていなかった。ナレーションはなく、テーマ音楽だけでアニメーションが流れていたのである。
最初は名ナレーションと思っていたが、シーズンを重ねるごとにだんだんうっとうしく感じるようになった。なお「(私の)かわいい人」という意味のダーリン(darling)と旦那の名前のダーリン(Darrin)は音が違うので注意。おなじ発音と思ってしまうのはRとLの区別ができない日本人だけかもしれない。「愛する人」という意味ではスイートハートを用いている。サマンサはダーリンに対しても、タビサに対してもスイートハートと呼んでいる。
じつはこのナレーションは初回のナレーションに基づいている。コミカルな映像とともにつぎのようなナレーションが流れる。
かつてどこにでもいるようなアメリカ人の娘がいました。彼女はどこにでもいるような赤い血の流れるアメリカ人の青年にたまたまぶつかってしまいました。その後おなじ青年にぶつかり、またそのあとぶつかってしまいました。そこでもう一度ぶつかる前に座って話をした方がいいとふたりとも考えたのです。彼らは仲よくなりました。彼らは興味を持っていることがたくさん共通していることに気づきました。ラジオ、テレビ、列車の旅などです。青年は彼女が人を惹きつける魅力を持ち、愛らしいことに気づき、赤い血の流れるアメリカ人の青年ならみなするであろうことをしました。結婚を申し込んだのです。彼らはごく普通の結婚をしました。ハネムーンはごく普通でしたし、新婚カップルのスイート部屋もごく普通でした。ただ違っていたのは彼女が魔女だったことです。
Once upon a time, there was a typical American girl, who happened to bump
into a typical red blooded American boy. And she bumped into him, and bumped
into him. So, they decided they'd better sit down and talk this over before
they had an accident. They became good friends. They found they had a lot
of interests in common. Radio. Television. Trains. And when the boy found
the girl attractive, desirable, irresistible, he did what any red-blooded
American boy would do: He asked her to marry him. They had a typical wedding.
Went on a typical honeymoon, in a typical bridal suite. Except, it so happens
that this girl is a witch.
わたしはひねくれた性格の持ち主なので、結局は魔女が人間の男をだましているのではないか、と考えてしまう。もちろん、だますつもりはなかったのだろうけど、結果的に普通の人間のふりをすることでだましてしまっているのである。実際は少なくとも三百歳、おそらくは四百歳か五百歳の魔女なのである。魔法を使ってダーリンとともに年を取っていくが、ダーリンがこの世を去るとまた若返って人間の男に恋するかもしれない……。いやもちろんこういった想像は野暮だけど。
じつはテレビドラマで「年を取らない」という設定は危険である。人は、一年(1シーズン)のはじめと終わりではそんなに変わらないが、シーズン1とシーズン2、あるいはそれ以上を比べると、けっこう老けて見えるものである。私自身の評価ではトップクラスのドラマ『名探偵モンク』の主人公モンクの最愛の妻トゥルーディーは、ドラマの最初ですでに死んでいて(美人ジャーナリストだったが自動車爆弾で殺される)、回想の中にしか登場しない。問題は、回想にもかかわらず、トゥルーディーがどんどん老けてしまったことである。『奥様は魔女』のサマンサにも似たことが言える。魔女で年を取らないはずなのに、ごく普通に年を重ねているのである。もっとも、老け込んだわけではなく、魅力的なアラフォーになっていくのだが……。
→ 「サマンサら魔女は死なない?」