イエスのインド思索の冒険 

スタニスラフ・カプシチンスキ『イェシュア』 

 

(1)ポーランド魂 

 アシュウィン・サンギのゲーム感覚あふれる小説を読んだあと、スタニスラフ・カプシチンスキ(筆名スタン・I・S・ロー)の『イェシュア』を読むと、小説の定義がわからなくなってしまう。油性絵画とイラストほど、まったく違うのだ。カプシチンスキの小説はどれもテンポが悪く、読みづらく、なかなかその世界に入っていけない。しかしひとたび流れに身をゆだねると、その独特な世界から離れることができなくなってしまう魅力があるのだ。あえて名づけるとすれば、思索小説とでもいったところだろうか。フレーズのひとつひとつが深く、何層にも意味が織り込まれていて、彼自身が彫刻家であるせいか、世界が彫刻刀によって彫琢されたかのような作品ができあがる。

 序言でカプシチンスキは語っているのだが、『イェシュア』を書くきっかけは、エドガー・ケイシーのリーディング(催眠下における情報の読み込み)だったという。ケイシーがリーディングしたイエスは、「失われた歳月」の間、シリア、ペルシア、エジプト、そしてインドを遍歴し、さまざまなことを経験し、学び、思想を育んでいった。

 イエスの思想というのは、もちろん作者自身の思想といっても過言ではない。カプシチンスキが言うには、小説のイェシュア(イエス)のキャラクターは新約聖書ではなく、主にナグ・ハマディ写本、すなわちグノーシス主義的な外典に拠っているという。その意味ではキリスト教の正統派からすれば異端的ということになるだろう。 

 カプシチンスキはポーランド系カナダ人作家である。本業は建築家で、彫刻家でもあるのだが、著作物が30冊を超えているのだから、やはり作家を本業というべきだろう。しかし謎めいたところも多く、正確な生年月日やポーランドから英国へ渡ることになった経緯などは、目下のところ私にはつかめていない。彼は英国のカレッジ、そして技術系の大学に進み、バイオリンや戯曲を学び、1965年からはカナダのモントリオールに住んでいるという。こうした経歴から察するに、幼少の頃はソ連という見えない影に圧迫されてキリスト教の信仰が許されず、英国に渡ってからようやく信仰の自由、思索の自由を謳歌できたにちがいない。

 



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