(4)神の羊 

 彼らは17年ぶりにガリラヤに戻った。ガリラヤに近づいたころから、洗礼者ヨハネの噂が耳に入るようになった。

「何百人もの信者がヨハネに従って砂漠に入った」「ヨハネ様はメシアだ」「ヘロデ王もヨハネを恐れているそうだ」「気の狂った聖者だ」

久しぶりに会ったこの世で二番目か三番目に美しい人妻マギー(マグダラのマリア)はビフにこう言った。

「ヨシュアのいとこ、ヨハネに会うべきだわ。ヨハネは来たる王国について説教しているの。それからメシアのための準備をすべきだと言っているわ」

 彼らはエリコの北の砂漠のなかにヨハネを見つけた。遠くからではよく聞き取れなかったが、近づくとヨハネはこう叫んでいた。

「いや、わたしはその人ではない! わたしは準備を進めているだけだ。わたしのあとにやってくる人が、その人だ。わたしは彼の玉当てを担うに値しない」
「なんだ、玉当てって?」とヨシュア。
「エッセネ派用語だよ」と村の笑われ者バート(バルトロマイ、バーソロミューの愛称)は言った。「あいつらはおのれの罪深き玉(もの)を制御するために躍起になってるんだ」

 そのときヨハネはラクダに乗っていたヨシュアに気づき、話をとめ、指差した。「そこだ! そこにいらっしゃるぞ。わたしのあとにやってくる、と言ったその人が来たのだ。見よ、神の羊を!」

 ヨシュアはビフ、バートとともにヨハネと会って話をした。ヨハネは好物の焼きバッタをハチミツにつけてパクパクと食べている。

「バッタ、もっと食べるかい?」
「いや、ノーサンキュー。おなかいっぱいだ」
「で、聖なる閃光というのを東方で発見したのか?」とヨハネ。
「それは王国へと通じる鍵なんだ。われわれすべての内側に神がいるということを人々に教えなければならない。聖なる閃光においてわれわれは兄弟なのだ。でもどうやって世界に広めたらいいものやら」
「まあ、そうだね。でも聖なる閃光ってのはやめたほうがいいね。民衆はわからんだろ。聖なる亡霊、聖霊というのはどうだ? みなの中に亡霊がいる、ていえばわかりやすいだろう。そしてそれが神だと信じ込ませればいいのさ」
「完璧だ」
「そう、聖霊。すべてのユダヤ人には聖霊が宿る。でも異教徒には宿らない。これでいいよな?」




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