<小屋>
夕闇がすっぽりとこの秋の地を覆いました。あなたはペイガンの仲間らとともにほのかに明かりのともった小屋へ向かって野営地の泥の道を歩いていきます。頭上には星が輝いていますが、月は第四位相のため姿が見えません。歌うコオロギも一匹もいません。サーウィンが近いので、陽気な小さな生き物たちは落ち葉の下や土の中などの冬のすみかに帰っているのです。地面を踏みしめる靴の音だけが、夜の静寂(しじま)に響き渡っているのです。
あなたは山中に設けられた私営の野営地のペイガン集会に参加しています。長年あなたはこの集会にやってきていました。今夜は三日間のうちの二日目にあたります。あなたは予定されている活動が待ち遠しくてしかたありません。
建物の入口の階段に近づくと、あなたを含むグループは歩く速度をゆるめます。階段の上には案内人が待っています。メンバーひとりひとりの参加が許可されます。彼女は列の先頭の者に話していますが、言葉を聞き取ることはできません。あなたは興味津々ですが、待つことも苦ではありません。外はとても寒くなってきました。でもあなたは厚いフリース・ジャケットを着て、ロング・パンツをはいているので、寒くはありません。屋外で過ごすのは過酷ではありません。
小屋の扉が開き、メンバーのひとりが中に通されます。一瞬開いた扉からおだやかな音楽が流れてきます。それからまた静寂が戻ってきます。あなたは待つだけです。
何分たったでしょうか。たくさんの人があたたかい灯がともった小屋に入り、出てきました。そしていまあなたが列の一番前にいます。案内人はなかでどういうことがおこなわれるか説明しています。あなたは静かな期待に胸を膨らませます。彼女が扉を開け、中へといざないます。
柔らかな光を発するランプが天井の梁に沿って並んでいます。それらはおだやかに光っていて、あるものは透き通っていて、あるものは青色を発しています。白と青の美しいタペストリーが壁に掛けられていて、水中にいるかのような雰囲気を醸し出しています。流れてくる音楽は人をうっとりとさせ、心にやすらぎを与えます。ふたりの人がシンギングボウルを楽しんでいます。その音色に耳に快い鈴の音が加わると、ムードがとてもよくなります。なかにはレインスティックを楽しんでいる人々がいます。雨の降る音を奏でて、雨の多い雰囲気を出します。
あなたの右側には二つのイスと小さな布を張ったテーブルがあります。遠くのイスに坐る仲間のペイガンがやさしくほほえんでいます。彼は手招きをして坐るようにうながします。差し出されたイスにあなたは座します。あなたの目の前のテーブルの上には水が入った大きなボウルがあります。ボウルは濃い青色のつやのあるクレイ製でした。男は両手を伸ばしてしずかにあなたの手を求めてきています。あなたは自分の両手を彼の両手の中に置きます。彼はやさしくあなたの両手を自分の片手の上に置き、残る片手をボウルの水に浸します。彼はあなたの両手にお湯を注ぎます。それがなかなか気持ちいいのです。あなたはお湯の温かさに感謝します。彼は数回繰り返しお湯をあなたの両手に注ぎます。十分にあなたの両手は湿り、ぬくもりを得ることができるのです。それから彼はふわふわしたタオルであなたの両手を乾かします。タオルは二枚使用します。彼は自分の手であなたの両手を包み、あなたの目を見つめます。彼はあなたとほほえみを交わし、あなたを解放します。あなたは立ち上がり、お辞儀をして、つぎのエリアへと移動します。
ほかの仲間のペイガンは床の上に坐っています。彼女の目の前には大きな灰色の石があります。その石はゴルゴツして頑丈そうです。彼女はしぐさであなたに坐るよううながします。あなたは小さなラグの上に膝をつきます。ラグがそこに置かれたのには、目的がありました。彼女は目を閉じながら、しぐさであなたに両手を差し出して、石の上に置かせます。あなたは言われるままにして、自己が地に根を張っているように感じます。あなたは10を数えながら息をして、目を開けます。驚くほどの静けさを感じます。女もまた目を開け、変化を感じ取ります。あなたと彼女は互いにほほえみあいます。
あなたは立ち上がり、感謝をしながらお辞儀をします。そしてつぎのセクションに移ります。この部署にはだれも配置についていません。しかし小さな標識があり、それが意図されたものであることがわかります。小さなテーブルには水を入れたシルバーのボウルがあります。ボウルはティーライトに囲まれています。黒い鏡もあります。カードによればあなたは水晶占い、あるいは水面や鏡の奥深くの暗がりを見ながらの占いに時間を費やします。ボウルの水面を選んだあなたはボウルの中をじっと見つめます。あなたの目は焦点が定まらなくなります。しばらくしてあなたのヴィジョンを白い鳩が羽ばたいて横切っていくのが見えます。そしてそこにはぎこちなく動くあなたの友だちそっくりの熊の姿がかわりに現れます。おそらくこれは彼の中に平和の根源を見つけるという意味でしょう。瞬きをする間にあなたはトランス状態から覚め、重かった首が楽になります。
つぎのセクションに着くと、長細いマットレスがあり、その端に女がひとり坐っています。そのマットレスは寝室小屋から借りてきたものにちがいありません。女はこの集会の参加者のひとりです。いままで何度か彼女を見たことがあります。彼女はあなたに近づくよう手招きをしています。あなたは腰をかがめて彼女の言葉を聞きます。
「わたしはオーラ・ストローキング(撫で)をします」と彼女はささやきます。「それはあなたのエネルギーをゆっくりと動かします。ペットを撫でるみたいに。でも実際に触るのではありません。坐っていただけますか」
あなたはこれを試してみようと決心します。女はあなたに背中を向けて坐るようにとささやきます。気持ちを落ち着かせようとあなたは目を閉じます。はじめ、あなたは何も感じません。夕方まであなたはリラックスして何にも邪魔されません。それからぞくぞくするような感覚があり、かすかにくすぐられているような感じがあります。あなたは同時になだめられているようでもあり、パワーを与えられているようでもあります。あなたは座り、この感覚を楽しみます。どれだけの時間がたったでしょうか、女の手があなたの肩に触れます。あなたは振り返り、彼女をハグして、感謝の意を伝えます。彼女もハグを返し、別れ際に彼女はあなたの鼻をブザーみたいに押します。
心地よいスペースが提供されたすべてのセクションを回ったあなたは、去りがたい思いをしながらこの小屋を去ることになります。扉の前であなたは振り返り、おだやかな心地にしてくれたこのサンクチュアリーで働く人々に敬意と感謝を感じ、お辞儀をします。そしてあなたは扉を開け、夜の静寂に帰っていきます。
⇒ つぎ