4 悪魔                A・ダヴィッド=ネール (宮本神酒男訳)

 ケサル王物語に登場する悪魔はたいへん重要な役割をもっているが、私が述べることはそれほど残っていない。

 チベット人が考える悪魔は、西洋人が考える悪魔とは、まるっきり異なっている。彼らにとって悪魔は地獄の住人ではない。西洋では、悪魔はときおり地獄から逃げ出し、人を誘惑に駆らせたり、人に危害を与えたりする。

チベットで悪魔を特徴づけるのは、つまり悪魔でありつづけるのは、それが徹底的に邪悪な性質を持っているからである。悪魔は本質的に悪意をもっていて、残酷なのである。彼は苦しみをもたらすことに悦楽を覚えるのだ。

この害を与える存在は、人、動物、霊魂、妖精、ファウヌス(半神半羊)、半神、あらゆる形を取りえる。彼はいかなるところにも存在できる。唯一いられない場所は天国であるが、彼はその悪の本能のためにそこから追い出されてしまったのであり、そこに満足を見出すことができなかったのである。


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