チベットの英雄叙事詩

ケサル王物語

11 三十人の英雄が一堂に集まる 

 リンの人々は新しい地で安穏に暮らしはじめた。ここは静かで美しく、牧草が豊かだったので、牛や羊がよく育った。
 みなが幸せに暮らしていた。あやうくジョルは自分に重大な使命があることを忘れてしまうところだった。どんな平和や幸福も長続きすることはないのだ。
 隣のユルン・スムド地方では、依然として妖魔がはびこり、災厄が途絶えることはなかった。
 ジョルは相変わらずイタズラ好きで、あちこちでいざこざを起こし、リンの人々に疎ましがられ、またも母と子は追放されることになった。追放された場所はユルン・スムド地方だった。

 ここでもジョルはさまざまなものに変化(へんげ)し、大小さまざまの妖魔や悪神を制圧することに成功した。ユルン・スムド地方は穏やかで平和な土地に変わっていった。

 こうしてジョルは十二歳になった。「鉄のブタ」の年である。

 寅の月の八日、空が暁に染まる前、ジョルがまだ熟睡している頃、白獅子に乗った女神ナムメン・カルモが、たくさんのダーキニーを率いてやってきた。女神はジョルの耳元で歌った。


若い苗から実が結ばれないなら

茎がどんなに伸びても家畜の餌になるだけ

夜空に月の飾りがなければ

星がどんなに多くても空は真っ黒

ジョルがどんなにリンのために善事を行っても

大権を掌握しなければ衆生は苦しむことになる

 ジョルはうつらうつらとした状態で女神の声を聞いていた。

「ジョルよ、明日のこの時間、おまえは馬頭明王(ハヤグリーヴァ)に変化(へんげ)し、トトンに予言を示しなさい。即刻競馬会を開催し、王位、七宝、またリンでもっとも美しい娘、すなわちキャロ家のセンチャム・ドゥクモ(Seng lcam ’Brug mo)を賜杯とするよう命じなさい」

 女神はさらに告げた。
「ジョル、天神の子よ、北方の荒野にいる神馬を捉えなさい。早く準備を整えよ。いままさに神威が現れる時なのです」

 ハッとしてジョルは目覚めた。目を開いて四囲を見回すが、暗闇があるばかりだった。女神の姿はすでになかった。女神のことばはそのとおりだった。
「自分はこの12年、汚泥のなかに隠れた蓮華のようだった。母ゴクモを除くと、だれもぼくの本当の姿を知らないだろう。どんなに衆生のために善事を行ったところで、ほとんどの人はぼくが何をしているか知らないし、その目的も理解できないだろう。いまこそ、真実を公にするときだ。女神の命令のとおりにして、競馬に参加し、王位を取らねばならない」

 王位を取るために必要なことがあった。それはダクロン部落の長トトンに競馬を主催させることだった。このときトトンは瞑想室にこもって「護法神馬頭明王の修法」を実践していた。これは絶好の機会だった。
 九日の夜半、ジョルはカラスに変身し、修法をしているつもりでうつらうつらとしていたトトンの耳元に近づき、神託の歌をうたった。

 

トトン王よ、惰眠をむさぼっている場合ではないぞ。

我は汝の守護神、馬頭明王である。

競馬会を開くことを忘れていないか。

競馬会を開けば賜杯はタクロン家のもの。

リン国の王位と七宝、

美しい娘センチャム・ドゥクモ。

これらもタクロン家のもの、すなわち汝トトンのもの。

神馬もおまえのものになるのだぞ。

 

 トトンが目を開けると、ジョルの化身であるカラスは馬頭明王像のなかに姿を隠した。トトンは予言を信じ込んでいたので、即座に身を起こし、馬頭明王に向かって何度も叩頭した。彼はまた妻の妃デンサに対し、馬頭明王から神託を授かったことを話し、競馬を行うよう促した。*トトンはタクロン部落の王なので、トトン・ギャルポ(王)と呼ばれることがあります。リン国の国王センロンは兄であり、トトンがリン国の国王に推戴されてもおかしくないのです。

 デンサはよく考えた。リンの王位、七宝、それに美女ドゥクモ、これらはジョルに与えられるという予言があったと聞いたことがある。そもそもジョルは変化(へんげ)の術を得意としていた。この予言さえも、にせものの可能性があるだろう。いや、これはジョルがたぶらかしているに違いない。

「わが王よ、夜更けのカラスがしゃべることを信用してはなりませぬ。それは神ではなくあなたをたぶらかす妖魔でありましょう。神託ではなく、詐欺でありましょう。わが王よ、めざめなさい!」

 デンサ妃が言い終わる前にトトンは神託のことばを思い出していた。


上等な人物は神仏に心を捧げる

心の中には太陽が輝く

中等な人物は心を王に捧げる

自由闊達にふるまうが王には忠実

下等な人物は女房のことが気にかかる

そんな者の運勢はなかなか上向かない


 トトンは思った。
「下等な者は女房のことばかり気にするというが、わしは上等な人物なのだから、当然神仏の言うことが気になる。わしが気にするのだから、あれは神仏のことばということだ。リンの七宝、王位、それになんといったってあの美しい娘、ドゥクモ。これらがわしのものとなるのだ。ドゥクモがわしのものになるのなら、ほかのものはいらないな」

 考えれば考えるほど、馬頭明王の神託は意にかなっていた。彼の馬はリンでも屈指の速さを誇り、競馬で負けることはありえなかった。唯一気になる点といえば、ドゥクモが競馬の優勝賜杯となることを望むかどうかということだった。
「わしのもとなら、喜んで嫁いでくれるだろう。わしの嫁になって喜ばない女などいないわ。しかも王妃になるのだからな」
 そう考えた瞬間、妻デンサの顔が浮かんできた。
「だが妻は黙ってはいまい。ドゥクモにその席を譲るということはないだろう。いささかも妥協しないだろう、あいつは頑固なところがあるからな」
 トトンはつづけて考えた。
「いますぐデンサには出て行ってもらおう。妻がいなければドゥクモを迎えるさいの障害がなくなるというものだ」
 このような考えが至ると、トトンは鬼の形相をして妻にどなった。

「おい、このゲス女! 神託ってのは聖なる金言だぞ。おまえは大胆にも罵詈雑言の斧でそれを斬ろうとしておる。吉兆は軍神の横顔みたいなものだが、おまえの目は凶兆そのもので、縁起のわるいツラだ。もしわれらに9人の子どもがいなければ、おまえの舌を切り、鼻をそぎ落としているところだ。
 もうじき競馬会を開く。そうしたらわしが優勝してドゥクモがこのダクロン家にやってくるだろう。おい、ゲス女! ドゥクモはおまえの百倍もきれいなんだよ。ダクロン家にとっておまえみたいな不細工は必要ないわ。もしドゥクモが来てもこの家に留まりたいなら、ほんのわずかな飯で我慢するんだな。もしドゥクモにかしずかないで、減らず口を叩いているようなら、とっとと出て行ってもらうからな」

 デンサはトトンの威圧的な話しぶりに気おされ、身震いした。俗に「借金取りに追い立てられたら、年寄りは額の皺を消すことができない」というのは本当なのである。
 トトンの家に嫁いだ若い頃は、草原に咲く花のように美しかった。それから長年の月日が流れ、たくさんの子どもを生み、育て、家事を切り盛りした。年を取ったいま、夫は新しいものばかりを好み、古女房のことばを悪くとらえ、半生をともにすごした彼女を蹴っ飛ばそうとさえした。言い争おうにも、言い返せばさらに言いがかりをつけてくるだけだった。
 けれど神様はいつも公正のはず、とデンサは思った。この小人物がどうなっていくか、見届けてやろう、という冷めた気持ちを持った。何も言わないで、いままでどおりにすごし、声音ひとつ変えずに家事をこなそう。こうして彼女は異を唱えることもなく、トトンのため、宴席の準備に取りかかった。

 虎の月の十日、太陽が高山の頂に金の冠を与える頃、リン国の三十の英雄兄弟がトトンの招きに応じ、ダクロンに集まった。そのなかには八人の英雄、七人の勇者、三人の将軍が含まれていた。各隊はそれぞれ旗のもとに整列し、鎧兜をまとい、威風堂々と行進した。

 トトン王の家来アク・タパ・ソナムは主人の命を受け、それぞれの英雄のもとを訪ね、馬頭明王の神託のことを説明し、まもなく競馬を行うことを告げた。十五日に開催するということでよろしいか、と彼は聞いた。

「ほほう、それで競馬に勝った者には褒美として何がもらえるのですか」とギャツァ・シェカルはたずねた。

「おや、おわかりになりませんか。神託ははっきりとリンの七宝、王位、ドゥクモ、これらを競馬の褒美とすると言っています」とアク・タパ・ソナムは得意げに言った。彼も主人トトンと同様、競馬で勝つのはダクロン家の馬だと信じ込んでいた。トトンがリン国の王になれば、彼はもはや、たんなる家来ではなかった。どんな高位の役職、いやどの大臣に任命されるのか、楽しみでならなかった。


いにしえのことわざに言う。

美女を求める人はあまた

願望をとげた人はごくわずか。

豊作を望む人はあまた

いい収穫を得た人はごくわずか。

弓、馬、サイコロ、腕比べはあまた

賜杯を手にした人はごくわずか。


ドゥクモはリン国一の美女

王位はリン国一の権威

七宝はリン国一の宝

駿馬に乗って獲得せよ。

だれの馬が一番速い?

だれが最後に勝利を収める?

天の意思と人の心は合致する。

もし合致しなくても気落ちはするな。


 ギャツァやセンタ・アトムら英雄は、早くからトトンの思惑を読んでいた。すなわち競馬を通じて合法的にリン国の玉座に昇り、リン国の大権を掌握し、さらに美貌のドゥクモをもいただこうとしていることを知っていた。
 だれもがトトンのこうしたやりかたに不満を持ったが、表向きの立派なことばに反対することはできなかった。人々は何も言えなかったので、総監ロンツァ・タゲンのほうに目を転じ、発言に注目した。

 彼はトトンの陰謀に対しどうしたらいいか考えあぐねていた。十数年前自分が賜った神託のことを彼は思い出した。


十二歳が競馬の賜杯を手にするだろう

あたかも東の山の頂に金の太陽が昇るように。


 この神託を思い出し、老総監は満面の皺をほころばせて微笑んだ。

「競馬の勝者に褒美が与えられるのはよきことじゃ。堂々と王位、財宝、美女をもらい、だれにも文句を言われない。問題は、時間じゃ。冬の十二月、大地は氷雪に覆われ、馬に乗るのは恐怖以外の何ものでもない。十五日に開会するのがふさわしいとは思わぬ。だれかよい考えをお持ちの方はおらぬか」

 ギャツァは老総監である叔父の言う意味がよくわかった。開会の日時をずらし、そのことをジョルに知らせ、彼が準備万端整うようにしたいのだ。

 虎の月の十五日、開会まで五日あった。トトンはしかし、のんびりと構える気にはならなかった。すぐに競馬が開催されなかったのはくやしいことだった。この十五日は、協議や宴会の日ではなく、競馬会当日のはずだった。一日でも早く競馬が開かれ、一日でも早く王位に就き、一日でも早く七宝を得て、一日でも早くドゥクモをわがものにしたかった。
 この五日間は五年よりも長く感じた。トトンの心は燃え盛っていた。受け入れがたい五日間だが、実際忙しかった。宴会を大々的に行うことによって、彼が財を持ち、頭がきれることを誇示したかった。
 だれにも話していないある考え方が、トトンにはあった。つまり競馬の準備をしながら、ほかの人々に好感を持たせたかった。王位に昇ったあと、統治するときのことを脳裏に描いていたのである。

 虎の月の十五日が終了した。宴会に参加した人はとても多かった。須弥山のように威厳のある叔父、海面の氷のように冷静な兄嫁、張られた弓矢の弦のような青年、夏の花のような美しい娘らがダクロンのテントへと向かっていった。これらを取り仕切っていたのが大公証人ウェルマ・ラダル(Wer ma lha dar)だった。彼は多忙ながらも喜び、高らかに宣した。

「上方の花で飾られた金銀緞子の敷物の上には、ギャツァ・シェカル(rGya tsha zhal dkar)、セルペ・ニブム・ダルヤ(gSer pa’i Nyi ’bum dar yag)、オムブ・アヌ・パセン('Om bu A nu dpa’ seng)、ムジャン・リンチェン・ダルル(dMu spyang Rin chen dar lu)の四公子に坐っていただきます。

 中間の錦織の敷物の上には、四名の王、すなわち総監ロンツァ・タゲン、ダクロン憤怒王トトン、センロン王、ナムカ・センシェ(Nam mkha’ seng zhal)、四名の宝幟を持つもの、すなわちグル・ギャルツェン(Gu ru rgyal mtshan)、トゥンパ・ギャルツェン(sTon pa rgyal mtshan)、グルニマ(Gu ru nyi ma rgyal mtshan)、ナル・タルパ・ギャルツェン(Nag ru thar ba rgyal mtshan)に坐っていただきます。

 つぎの一列には白い円の模様が入った熊の毛皮の上に、リンチェン・タルペ・ソナム(gLing chen thar ba’i bsod nams)、アパル・ブイ・ペンタ(A ’bar bu yi ’phen stag)、公証人ダルペン(Chos lu Dar ’phen)、ウェルマ・ラダル、医師グンガ・ニマ(Lha rje Kun dga’ nyi ma)、巫師クンシェ・ティクポ(Kun shes thig po)、占星師ラウ・ヤンカル(rTsis pa Lha bu gYang dkar)、工芸師カチェ・ミマル(sGyu mkhan Kha che mig dmar)ら八名に坐っていただきます。

 一番後ろの緞子の上には美しい七姉妹に坐っていただきます。ドゥクモを中心とし、その左側にレキョン・ルグチャヤ、司令官の娘ユチェンとロド・ペガナツェ、右側にツァシャンの娘ゼチョン、ヤテの娘セルツォとダクロンの娘トムツォらです」

 大公証人がリン国の地位ある者、富ある者を並べたあと、その他大勢は好きな場所に坐った。人々は慈雨のような果実、肉、菓子を食べ、川の流れのような酒、茶を飲んだ。満ち足りると、若者たちは歌い、踊った。娘たちは、飛び跳ね、舞い、歌った。

 人々が満腹し、踊って楽しんでいるとき、トトンが歌った。

 

三十名の英雄のなかで

武芸において抜きん出る

リン・カルポのあまたの部落中

だれもが望む民衆を率いる首領

この競馬の勝者が王となり民衆を率いる

我白い天幕のなかで

貴賎分かたず平等に扱う

上は四名の貴公子から

下はグルという名の乞食まで

みな競馬会に参加する権利がある

みな王位に就く権利がある

 

速く駆ける馬とゆっくりと駆ける馬

一夜の草と水

強い英雄と弱い英雄

一生の修行

賜杯を得る駿馬と得ない駿馬

事業がうまくいく場合と失敗する場合

競馬の時期はいつがいい?

走路は長いのがいい? 短いのがいい?

兄弟たちに話し合ってもらおう

 

 腹黒いトトンは、巧みな弁舌によって競馬がリン国にとって有益であることを説いた。参加する権利と平等性などもっともらしいことを並べ、だれにも反駁の余地を与えなかった。

 総監ロンツァ・タゲンはトトンの陰謀を暴こうとはしなかった。というのは、彼は神託を信じ、競馬に勝つのはジョルだと考えていたからだ。しかし今日、リンのほとんどの人が集まっていたのに、ジョルの母子だけ見かけなかった。もしこの競馬のことが通知されていなかったとするなら、どうやって勝つことができるだろう。ジョルが来なければ、トトンの陰謀をどうやって妨げられるだろうか。ここまで考え、ロンツァ・タゲンは大衆に向かって訴えた。

「競馬の賜杯について何も問題はない。しかしリン国のすべての人々がこのことを知っていなければならぬ」と、すべての人々というところを強調した。トトンはまさにだれもが平等に参加できることを主張していたからだ。

「競馬の開催は五、六月がいいだろう。ことわざにも言うではないか、愚かな女人は寒い冬、ミルクが凍っているとき攪拌し、バターを作ることができない、手が凍傷になるだけ、と。愚かな男は冬、氷雪の上で競馬を行おうとし、みな滑って転び、優劣がはっきりしない。自分で相撲をとるのが関の山だ。温暖になる五、六月なら光があふれ、馬や人がよく見え、競馬にはもってこいだ」

 ギャツァにとって叔父の考えは明らかだった。すべての人々に競馬に参加してもらうという建前で、じつはジョルに参加してほしくなかったのだ。ここで自分が主張すべきだと思い、彼は声をあげた。

「リン国の競馬に関しては、だれからも反対の声はあがっておりません。しかしながら、ぼくギャツァ・シェカルの弟で、母ゴクモの子であるジョルを忘れないようにお願いしたい。ことわざにも言います。肉が小さいといっても綿羊の腿肉、馬が小さいといっても駿馬の子、人が小さいといっても叔母の子、と。ジョルの母ゴクモはリンの宝です。竜王の娘です。誤解もありましたが、母子は過去に何ら過失がなく、むしろためになることばかりをしてきました。もしジョルが参加しないなら、ぼくも参加しないことにします」

 トトンはジョルが参加してほしくないと思ったが、その感情を表に出すことはできなかった。老総監が母子のことを気にかけているので、ギャツァは思ったことをそのまま口にしたのである。リンの人々は母子にたいし悪い感情は持っていなかった。もし我を張ってジョルを参加させないなら、おそらく事は失敗に帰し、かえって参加すべきだったという声が高まるだろう。しかし所詮ジョルは十二歳の小童。賜杯を手にしたところで他の人にあげねばなるまい。そう考えてトトンは笑みを浮かべながら言った。

「シェカルが言うとおりである。この宴会にジョルが参加していないのは、叔父のわしとしても遺憾なことである。おまえたちはジョルに知らせてやるべきだ。われわれは競馬の日時と場所を話し合って決定しよう」

 トトンの子ドンツェン・ナンル・アペル(gDong btsan snang lu a dpal)は我慢しきれなくなって声を荒げた。

「われらリン国の競馬の距離がもし短かったら、他国の笑いものになりましょう。もし気勢があがらぬようなら、いい恥さらしです。でありますから、競馬の名をあげるためにも、起点をインドとし、終点を中国とすべきです」

 英雄たちはドンツェンの大風呂敷を広げた物言いにあきれかえった。センタ・アドムはからかうような口調で言った。

「ははん、世界に名を高めるというのなら、起点は青空、終点は海の底というのではどうですかな。賜杯は太陽と月ですな。リンの人々は空中から競馬を観るとよろしい」

 英雄たちはそれを聞いて腹を抱えて笑った。ドンツェンは青筋を立て、顔を真っ赤にし、何も言い返さなかった。

 ギャツァ・シェカルは笑いを押しとどめ、実行可能な案を提出し、逃げ場のなかったドンツェンを救い出した。

 その案というのは、起点をアユディ山、終点をグル石山とし、ルディ山の山頂で香を焚き祈祷するというものだった。観衆はラディ山の山頂から競技を観ることになる。

 日時は、水草が豊富で温かい夏とすることでまとまった。



⇒ つぎ 










天の叔母ナムメン・カルモ。ケサルが天界の使命を果たせるよう、要所要所でアドバイスや予言を与える守護神的存在。マネネ(sMan ane)ともいう。白獅子に乗った女神の姿で描かれる。


漫画に描かれる天の叔母ナムメン・カルモ。



タクロン部落の長であるトギャル(トトン王)は競馬会の開催を提唱した