ケサルを多角的に見る
1 魅力的なケサル詩人(説唱芸人)
「ケサル王物語はなぜ面白いのか」という問いに戻ろう。その理由のひとつは、ケサル詩人(ケサル王物語の語り手)の魅力である。彼らのすべてが神授型というわけではないが、多かれ少なかれ、神秘的な側面を持っている。そしてその表現力豊かな語り、歌。たんなる浪曲歌手ではなく、芸能者なのである。すぐれた芸能者は、神の領域に近いといってもいいだろう。
彼らのスタイルのひとつひとつに深い意味がある。たとえばケサル帽。これはたんなる機能的な帽子ではない。あくまで神と交信する道具であり、それをかぶるといわば変性意識状態(神がかり)になるのだ。文革の時代、官憲はケサル帽をとくに危険視した。それを焼こうとし、川に流そうとしたが、なかなか成功しなかったという。
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