6日目 

 6時までに巡礼者はみな起床し、火がつけられる。男たちはテントをたたみはじめる。お茶とザンパが消費されると、ヤクに荷が載せられ、みな日の出前に出発する。

 ごく普通の坂道を上っていくと、タムチョク・ゴンパ(rT-mchog gong-pa 最高の駿馬の意)という峠に達する。アニ・マチェン山脈の南に位置し、かなり高さのある旗竿が目印となっている。その旗竿にはたくさんの縄が結われている。縄には無数の旗がかけられ、旗竿がまるでパラソルのように見える。

 ここですべての巡礼者が立ち止り、五体投地をはじめる。それから男たちは新しいタルチョ(祈祷旗)を掛け、杜松の葉を燃やし、風馬(ルンタ)を撒き、彼らの馬の鬣(たてがみ)から毛をむしり取り、馬の頭蓋骨や鬣、轡(くつわ)などが山積みになっているものの上に置く。これは馬の健康と長寿を願っているのか、それとも馬の運気(g-yang)を得るためのものなのか。

 そのあと男女とも巡礼者は馬を引きながら、何周もその周囲をまわる。

 タムチョク・ゴンパから道はンガンバイ・ショグテン(Ngang-bai gshog-steng)という広大な平原を横切っていく。平原にはニェルワ・ドンギ・シェーカル(gNyer-ba mgron-gyi zhal dkar)あるいはニェルワ・ダンギェギ・シェーカル(gNyer-ba brang rgyas gyi zhal dkar)という名の雪山がそびえていた。この平原には小さな湖が散らばっていたが、それらはアニ・マチェンへの捧げものと言われている。

だれもが動物のペースにあわせて歩いた。巡礼者は非常に多く、彼らはあちこちで止まっては昼食を食べたり、お茶やザンパを口にしたりした。

 10歳ぐらいの少女の巡礼者が、グループからグループへと移動しては物乞いをしていた。少女とその母、もうひとりの女は五体投地をしながら巡礼をしていて、そうして進みながら食べ物を乞うていた。ほかの巡礼者は食べ物もお金も惜しみなく与えていた。そのうちのひとりは義務感に駆られてか、少女がもらったものを運ぶのを彼女のキャンプまで手伝ってあげていた。

 巡礼者はさらに西方へ進み、モワトワ(Mo-ba gto-ba)という無数の岩が露出した丘の先の小さな湖(だれも名を知らなかった)に到着した。湖面には雪山の影が映っていた。だれもがその前で長時間たたずみ、何か考え事をしていた。巡礼者のひとりはカメラを持っていて、そこで2枚の写真を撮った。

 湖の周囲をまわったあと、巡礼者の多くは岩々の周囲を歩いてまわった。ほかの人々はモワトワの丘の麓へ歩いていった。

 小さな石の壁ぼあいだに空洞があったが、そここそアニ・マチェンにいるあいだ、シャブカルが滞在した場所だった。この偉大なる神秘主義者の洞窟の前で、巡礼者たちは五体投地をした。それから巡礼をつづけた。巡礼路の境目にはしばしばケルンがあり、巡礼者はそこに石を置いた。

 その夜、キャンプは川の横の小さな谷間に張られた。男たちは動物を牧草地へと誘導し、女たちは火の世話をした。流れの近くでは、男や少年たちが、だれが石を遠くまで飛ばせるかを競っていた。

 巡礼者のなかには、到着すると、われわれのキャンプから離れたところにテントを張ろうとする者もあった。いつものように夜になると動物は戻され、つながれた。そして各家族はテントの入り口の火のところに坐り、談笑をしながら夜を過ごすのだった。


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