010−011
パッ! アッ! (双方が切りまくり、血しぶきが飛ぶ)
「殺せ!」(馬の死体)
(メトラツェの潤んだ目のアップ)
「もうやめて」(メトラツェが訴える)
「え」(メトラツェ、目覚める。屋外で夢を見ていた)
「そう、魔国の追っ手から命からがら逃げだしたことがあったわ。いままた夢を見たのね」
(炎上する村を背景に、祈りの仕草)「父親が突然私を存亡の危機だからといって、ゴク部落に嫁がせた。仙人みたいな人が導いてくれるという話だった……」
「私が嫁入りした本当の理由は、こんな災難にあうため? これはいったいどういうことなの?」
[解説]
魔国の妖魔たちがゴク部落に攻め込んでくる。
このメトラツェという名の美女は、のちケサルの母親となる女性。
ゴク部落の王妃だったので、ゴクモ(ゴク妃)と呼ばれるようになる。
メトラツェは、もともと竜女(竜の国の王の娘)だが、仙人のような人(蓮華生大師)のはからいによって、ゴク部落の王の王妃となる。
しかしゴク部落はリン部落に敗れ、メトラツェ(ゴクモ)はリン部落の王妃となる。
主人公ケサルの母親はこうして再婚することになるのだが、遊牧民の社会においては、日常的なできごとなのである。
貞節という概念は、定住生活を送る者と遊牧生活を送る者とでは大いに異なることに留意したい。
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