100−101
上リン部落 (ピューピューと吹く寒風)
(総監の大テント)
(テントに雪をかぶったトトンが入ってくる。なかで火がパチパチと燃えている)
(火の横に長老の総監、ギャツァ、手前にセンロン)
「もう食べ物がありませぬ。このままでは人も家畜も凍え死んでしまいます」
(意気消沈気味の総監)
「競馬による国王選びはしばらく延期するほかあるまい。もし天候が回復しないようなら、部落ごと移転する必要があるだろう」
「しかし四方は雪ですぞ。人が住めるところはありますまい」
(浮かない表情のギャツァ)
「ゴモ(メトラツェ)とジョルが住む北方での生活は、うまくいってるんじゃないかな。人も集まり、日々豊かになっているはず」「そのことは耳に入っていますか?」
「あっちは自然にも恵まれている。ゴモとジョルに助けを求めねばなるまい。しかし最初ひどいことをしたからな」(とセンロン)
(トトン、陰険な表情で力説する)
「ひとりの小わっぱに土地を占有させるのか。当人が望むにせよ、望まないにせよ、王になってしまうではないか」「それは奪い取ればいいのだ」
(最長老の総督、落ち着いて語る)
「あの土地は、かつてネズミの妖怪が横行し、強盗が出没した。そんなところにしっかり定着できたのは、高貴な人の助けがあったからだろう」「さらに、追放したことの是非はともかく、いまあの母子から土地を借りない理由などないのだ」
(火を囲んで、4人は興奮をおさえて、重大な話し合いをしている)
「金銀財宝を贈るとするか」(トトン)
「そこまで強欲な人はいないだろう」(ギャツァ)
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