102−103
(実直そうなセンロンが提案をする)
「私は違った方法があると思っている。ジョルはすでに大きくなっただろう。ジョルの父親としてかわりに考えてみたい」
「それは色仕掛けということか」(ギャツァ)
意図が見破られてしまう……。
(長老の総監が重々しく言う)
「部落の存亡にかかわること、下策ではあるが、試してみる価値はあるだろう。ただ、だれが行けばいいのじゃ?」
「当然、リン部落でもっとも美しい娘といえばキャロ家の娘でしょう」(ギャツァ)
(トトンはびっくりする)
「それはなりませぬ! ドゥクモは競馬大会で勝った者のものとなるのです」
「命も保てないというようなときに、競馬のことなど言ってられますか!」(ギャツァ)
「ジョルに助けを求めるのは、センロン一家としては本意ではありませぬ。しかしドゥクモに頼むというのなら、われら親子でキャロ家に参りましょう」(センロン)
「それならそなたたちに頼もう」(総監)
(雪の中、センロンとギャツァ親子はキャロのテントへ向かう)
(キャロの家の手前を歩きながらふたりは話をしている)
「この役目、われらでよかったのか?」(息子ギャツァ)
「聞くところによると、ここの娘は柔らかいものも、固いものも食べられないそうだ。気難しい性格なのだろう。漢妃に来させればよかったよ。われらの手にはおえぬ」
(そのときふたりの足元を何かが駆け抜ける)
ワン!
(テントの前に回った獰猛そうな黒犬が行く手をはばむ)
(ウ〜と唸る)
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