媽祖物語   宮本神酒男編訳 

 

7 すべての神書を読む 

 湄洲島の南側に「媽祖の書庫」と呼ばれる石だらけの奇観の場所がある。黄褐色の頁岩(けつがん)の一片一片が本のようであり、それが規則的に積み重なった様子が蔵書の豊かな書庫に見えるのだ。

言い伝えによると、林黙(リンムー)は幼いころから聡明でよく勉強ができ、たくさんの本を読んだという。彼女はじぶんの智慧でもって大海を征服し、世の人の難問を解決してあげようと心に誓った。とはいえ、彼女が読むことのできる本にはかぎりがあった。ではどうしたらいい? 彼女は香を焚いて祈った。そして考えに考えたすえ、日ごろの願いを成就するため、かぎりなくいい方法に思い当たった。

 ある日、彼女の夢の中に白髪童顔の老人があらわれた。老人は指でさしながら言った。

「善良なる娘さんよ、南の浜辺の石林のなかに書庫があるのをご存知か。蔵書はきわめて多く、奇書のたぐいも含まれておる。だれであろうとそこへ行って奇書を読むことができるのだ。そうしてすべてのことが成しとげられる人物になるのだ。ただし読むのが許されるだけだ。それを持ちさってはならない。外部の人に伝えるのもだめだ。もし外に漏らしてしまったら、世の中から安寧の日々がなくなってしまうだろう。このことは決して忘れないように」

 翌朝早く、林黙(リンムー)は夢の中で老人が指し示した方向へ歩いていった。するとたしかに石林のなかに書庫があった。目を奪うようなさまざまな美しい奇書であふれていた。日が沈むまで彼女は一心不乱に読み、なんとか一列分の書を読み終えた。彼女は老人に教えられたとおり、読んだ書をもとの場所にもどすと、すぐにそこを離れた。しかし何歩か歩いて振り返ると、書はすべて石に変わっていたのだ。

 数か月後、林黙は書庫の書を端から端まで読み終えた。それらはすべて読み終えると石に変じていた。石が整然と並んでいるのだった。

 こうして林黙は古今東西のすべてに通じた女性となったのである。彼女が天に召されたあと、人々はそこを「媽祖書庫」と呼ぶようになった。ある老人が言うには、もし天下一品の善良な人がそこを訪ねたならば、石は書に変じ、それを読むことも可能である。


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